母ちゃん、あの時、誰に何を伝えたの? 

 伝えたかったの?


 あの時だって空ではトンビが丸を描いてたはず。

また来ん春(c)Yuichi Okano

 いろいろ忘れていく母ちゃんに、

 良かさ、良かさ、

 と丸を描いてくれてたはず。

 ピ~ヒョロロロ……

 と鳴きながら。


 母ちゃん、来年の春にはホームの人たちと花見に行こう。

 今年は入院で、それどころじゃなかったから。

実感のないまま、
僕のマンガは広がっていく

 さて、そんな母の事、この坂の町に天草から海を渡って嫁いで来た母の事、を中心に描いた漫画本を自費出版『ペコロスの玉手箱』として出したのが4年前のこと。

 これは500部刷って、地元の書店さんに置いていただいていたのですが、売れたのは300部。残りの200部は自宅の階段の隅で長くほこりをかぶっていました。

 ところが、その後、また自費出版で『ペコロスの母に会いに行く』を500部刷って並べてもらうと、これがあっという間に売れてしまったというのです。さらに500部刷ったのですが、それもまたすぐになくなり……。

 それが西日本新聞社の方の目に留まり、昨年7月に全国発売となったのですが、「すごく売れていますよ!」と言われても、僕にはそれがどんな程度のものを指すのか、よくわからずにいました。それは今も変わっていませんが……。