スピルバーグとの
映画談義
じつは、いまはハリウッドでも中国国内でも、予算を気にせずに映画を撮れるところは少ない。だいたいの資本は、数千万で1本、撮れたら終わり。アメリカにいるときでも、向こうの人に、スケジュール通りにこの映画を撮りたいのか、それともいい映画を撮りたいのか、と聞く。もちろん、みんな後者だと言う。それなら、いい映画に仕上げるために、撮影をあと1週間延ばせないかと聞くと、だめだと言う。財務会計上、出来ないことだと言う。
だけど、自分で監督をやって、自分の資本で映画を作るときは、絶対にそういうことをしない。いつでも、予算を気にせずに撮っていく。いちばんいい出来になるまで、撮りつづける。だからこそ、“成龍映画”はいつでも外国映画に引けを取らない。同じように有名で、負けないくらいに興行収入を得ている。『バットマン』や『スパイダーマン』のような映画には勝てないかもしれないが、殺陣の入ったカンフー映画だったら、絶対に負けない。自分で監督をやって、殺陣の振り付けもし、かつスタントも自らこなす。ハリウッドにはそういう映画がない。
みんなによく話しているエピソードがある。スピルバーグに会ったときの話だ。最初に彼を見たときは向こうが大監督だから緊張して、どういう話をすればいいかも分からなかった。彼は部屋に入ってくると、すぐに嬉しそうに「ワオ、ジャッキー・チェン」と声をかけてきた。つづいて、自分の息子にサインをしてくれ、と頼まれた。
サインをしているときは、2人とも無言だから、少しきまりが悪い気がして、何か話題をしぼり出そうと、頭をフルに回転していた。サインを終えると、彼に、あなたの『E. T.』や、『ジュラシック・パーク』のような映画は、SFXをどうしているんですか、人を恐竜といっしょに映して、あんなに自然にできるのはなぜですか、と聞いた。彼は、ああ、簡単なことだよ、俺はひたすら何種類ものボタンを押しつづけるんだ。「ボタン、ボタン、ボタン」だよ、と言った。
すると今度はスピルバーグが、あなたこそ映画の中であれだけのスタントを、ビルから飛び降りたり、渓谷から飛び降りたり、あれはどうしてるの? と言うから、もっと簡単です、「ローリング、アクション、ジャンプ、カット、ホスピタル」ですよ、と答えた。
(本原稿は『永遠の少年:ジャッキー・チェン自伝』から一部抜粋、追加編集したものです)