人が逃げ出すほどの
執拗なこだわり
基本的にどのショットも、撮影の段階で、そっくり自分の思った通りでなければ、オッケーは出さない。現場のエキストラだって、よく成家班(ジャッキーのスタントチーム)の人たちがやっている。この場合、人力車の引き手、露天商、通行人など、全員成家班だ。連中はふつうのエキストラより、こちらのほしいものを分かってくれる。
『奇蹟/ミラクル』のそのショットは、アクションと言ったら、ただちに炒め物のコンロに火がつき、キャメラが下から2階まで来ると、飯を食っている2人がいる。そのときに、鳩が入ってきてとまる。キャメラもついていって、中で1周してからまた戻ってきて、クェイ・アルイの顔を大写しにする。けっきょく、このショットは7日もかかって、ようやく満足のいく出来になった。
『奇蹟/ミラクル』ではシークエンス・ショットを多用した。アニタ・ムイが写真に撮られるところのショットも、カーテンを掛ける人が必要だった。ある編集スタッフが、「“大哥”、どうせここは顔が映らないから、自分にやらせてくれないか。自分も役者になるのがどんな感じか、知りたい」と言ってきた。かまわないよ、と言った。そのとき彼は26時間もそこでカーテンをかけつづけた。撮影は一昼夜に渡ったわけだ。撮り終えると、彼は、「もう二度と役者にならなくていい」と言った。
あと、何人かの女の子、たしかみんな銀行に勤めてる事務員の子たちだったのかな、その子たちが遊びに来たときに、ちょっと出てみないか、まあ遊びだと思えばいいから、と誘った。彼女たちは乗り気で、嬉しそうに了承した。そのときも、彼女たちをひたすら現場で歩かせ、けっきょく一晩中歩かせた。終わったあとには彼女たちも、「もう二度と映画に出たくないわ」と言った。