日本最大級の食品メーカー「味の素」。その名を知らない人はいないだろう。そんな味の素は近年企業としても急成長を見せ、まさに日本を牽引する大企業になっている。しかし、そんな味の素も常に順風満帆だったわけではない。数年前までは株価、PBRともに停滞し、企業として危機に瀕していた。そんな味の素がなぜ生まれ変わったのか、「味の素大変革」の立役者である味の素・元代表取締役副社長の福士博司氏による企業変革の教科書『会社を変えるということ』がこの春発刊された。本記事では意識改革を基盤に会社の株価、PBRなどを3年で数倍にした福士氏の考え方を本文から抜粋・再編集するかたちでお届けする。
「ダメな職場」で起きている1つのこと
味の素のDXで成功体験を積んだ私は、現在では社外取締役や顧問として他社のDXを指導したり、講演を行ったりしています。
その際に、必ず触れることは、次の2つです。
・DXは、いち企業のデジタル変革ではなく、社会のデジタル変容のことを指す
・社会全体を覆いつくすようなDXの大波が押し寄せている今こそ、その波に乗らなければ、呑み込まれてしまう
このことからもわかるように、いち企業がDXをやるかどうか躊躇している暇など本来はないのです。なぜなら、企業が変わる前に社会全体のシステムがデジタル化されるDXの大波が現在押し寄せており、そこに乗れない企業はあっという間に呑み込まれてしまうからです。
もちろん、いち企業だけでなく、業界ごと呑み込まれてしまう場合もあるでしょう。大抵の企業では、そこまでくると、いよいよやらねばならないかと重い腰を上げはじめるのですが、それでもなかなか前に進んでいかないのが日本の伝統企業の実態です。
その大きな理由の1つは、すでに述べた通り、事業縦割りの力学が強いからですが、実はもう1つ大きな理由があります。それは、企業内部からさえも見えにくいのですが、縦割りのみならず、機能横割りの力学も伝統企業では非常に強いことが関係しています。
伝統企業には、さまざまな横軸機能の活動が存在します。カイゼン、コストダウン、人財育成、教育、働き方改革、営業強化、生産性向上、ダイバーシティ推進、イノベーション、サステナビリティ、グローバル化など、最近ではコロナ対策、サプライチェーン、リスクマネジメント……と、枚挙にいとまがありません。
当然、これらはすべて全社として推進すべきテーマですが、その問題は、それらの横軸機能や活動が、歴史的に整理されぬままやめることを知らず、新たなことばかり始めてしまうことです。それが原因で、仕事は膨れ上がり、社員の労働合計がオーバーフローし、全社としても非常に非効率でメリハリのない横軸の活動になってしまいます。