日本最大級の食品メーカー「味の素」。その名を知らない人はいないだろう。そんな味の素は近年企業としても急成長を見せ、まさに日本を牽引する大企業になっている。しかし、そんな味の素も常に順風満帆だったわけではない。数年前までは株価、PBRともに停滞し、企業として危機に瀕していた。そんな味の素がなぜ生まれ変わったのか、「味の素大変革」の立役者である味の素・元代表取締役副社長の福士博司氏による企業変革の教科書会社を変えるということ』がこの春発刊された。本記事では意識改革を基盤に会社の株価、PBRなどを3年で数倍にした福士氏の考え方を本文から抜粋・再編集するかたちでお届けする。

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「ダメな職場」で起きている1つのこと

 日本企業は、もっと「夢」を持つべきだと考えています。日本企業の失われた30年は言い換えれば、企業が、特にその経営者が「夢を失った30年」です。

 私がいた味の素は、この四十年余、学生の就職希望ランキングが高い企業でした。とりわけ理系、特に女子学生には、常に圧倒的な人気がありました。直近では、文系の学生にも超人気企業になっています。

 その一方で、実は味の素の一部の職場では、世間同様に入社3年目までの離職率が高まっており、問題になっています。

 なぜ、就職希望ランキングの高い企業に入っても配属先によっては、すぐやめてしまうのでしょうか? それは、その配属先にいると、「自分の夢が叶えられない」と感じてしまうことが原因に思えます。

「私はどうだったのか?」と聞かれると、理系として、当時のトップ人気だった味の素に新卒入社したのですが、30年以上、配属先は「自分の夢が叶えられそうもない職場」でした。どうしてやめなかったのか? と思われるでしょうが、それは、いつも遠い先の夢を見ていたからです。

 夢の視線が近視眼的であれば、いろいろな雑物が気になり、それにとらわれてしまいます。これは、人間の1つの特性だと思うのです。しかし、遠くを見つめて歩いていけば、雑物も気になりません。実際、混雑した駅周辺で、人にぶつからないで歩くベストの方法は、遠くに視線を据えて歩いていくことです。