日本最大級の食品メーカー「味の素」。その名を知らない人はいないだろう。そんな味の素は近年企業としても急成長を見せ、まさに日本を牽引する大企業になっている。しかし、そんな味の素も常に順風満帆だったわけではない。数年前までは株価、PBRともに停滞し、企業として危機に瀕していた。そんな味の素がなぜ生まれ変わったのか、「味の素大変革」の立役者である味の素・元代表取締役副社長の福士博司氏による企業変革の教科書会社を変えるということ』がこの春発刊された。本記事では意識改革を基盤に会社の株価、PBRなどを3年で数倍にした福士氏の考え方を本文から抜粋・再編集するかたちでお届けする。

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「これは私のせいじゃない!」と思うことは仕事で多い

「社長になってもなにもいいことがない」

 これは、私が社長さんたちから、こっそりとしたつぶやきとして、よく聞く言葉です。「そんなバカな!」と思うかもしれませんが、本当のことです。

 社長は企業のトップです。会社のヒエラルキーのトップに立つ責任は重大ですが、同時に地位や名誉、報酬もダントツであり、たとえ苦労してもその苦労が報われるはずのポジションです。そんな社長さんが、弱音とも思えることをつぶやくのは、大抵、過去の「ツケ」に関することです。

「今、いろいろな問題が起こっているのは、過去の経営のツケが回っているのであり、私には責任のないことだ。それでも社長として一生懸命やろうとしているが、とてつもない重荷になっている」という思いが、ふとした瞬間に吹き出てしまうのです。私も、何度も同じ思いをしてきたので、その気持ちをよく理解できます。

 だからこそ、私はそのようなときに社長さんに、「夢を諦めないで」というメッセージを伝えます。実は、夢を諦めないことには秘訣があります。それは、すべてを引き受ける覚悟を持つことです。現在から未来を引き受けることは社長なら当然ですが、なかなか難しいのは「過去」を引き受けることです。

「過去」についても責任を持つと聞かれたら、皆さんはどう思うでしょうか。私は、この本でこれまで「未来」、「夢」の話を主にしてきました。しかし、実は、「過去までしっかりと引き受ける」覚悟がなければ、「現在」と「未来」に対しても明解な方針、戦略、ビジョンを出すことは難しいのです。

 社長ばかりではありません。どんなに小さな組織でも、その組織のトップ、リーダーに必要なことは、この「過去も引き受ける」覚悟なのです。「それは過去のことだ、私の責任ではない」という上司をあなたは信じるでしょうか。おそらく信じないでしょう。

 うまくいったことは「あれは私がやった」と言う人が多いでしょうが、失敗したことを「あの失敗は、私がした」と逃げずに言う人はあまりいません。

 そう書きながらも実は私も何度も職場の失敗を「過去」あるいは、ほかの人に押しつけようとしてきました。思い出せば、実に恥ずかしいことばかりです。しかし、そんなごく普通の私にも、「過去」を引き受け、自分の責任で「現在と未来」を切り拓いていくことの重要さに目覚める機会がありました。