日本最大級の食品メーカー「味の素」。その名を知らない人はいないだろう。そんな味の素は近年企業としても急成長を見せ、まさに日本を牽引する大企業になっている。しかし、そんな味の素も常に順風満帆だったわけではない。数年前までは株価、PBRともに停滞し、企業として危機に瀕していた。そんな味の素がなぜ生まれ変わったのか、「味の素大変革」の立役者である味の素・元代表取締役副社長の福士博司氏による企業変革の教科書会社を変えるということ』がこの春発刊された。本記事では意識改革を基盤に会社の株価、PBRなどを3年で数倍にした福士氏の考え方を本文から抜粋・再編集するかたちでお届けする。

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「言いたいことは言うが、言うべきことは言わない会社」

 味の素は長い間、アナリストから、「言いたいことは言うが、言うべきことは言わない会社」と言われてきました。

 結果としての評価は、株価の長期低落です。それでも、いざIRの出番になると、スタッフは同じようなストーリーを質疑応答まで含めて用意します。私はこれを「分派経営」と呼んでいます。

 簡単に言うと、担当部署や担当者にすべて任せてしまうことです。ある意味、これを「ボトムアップ」や「人財育成」と勘違いしている側面も過去の味の素にはあったように思います。

 従業員にとっても、伝統企業である味の素には、よきにつれ、あしきにつれ、固定化された伝統的な食品会社としてのイメージがあり、「こういうものだろう」という空気が流れていました。このイメージや空気を支えてきたのが、味の素の企業文化・風土なのです。

 多くの従業員にとって、この味の素の企業文化は、慣れ親しんだものであり、誇れるものなのかもしれません。しかし、外部のステークホルダーはもっと冷静ですから、状況によっては、この味の素の企業文化こそが問題だと感じられるのです。つまり、実は自分たちが大切にしているものこそが1番の批判の対象だったのです。

 ステークホルダーとの対話が重視される時代になって、味の素も他社同様、どんどん必要な開示をしてきたつもりでした。それなのに、「味の素は、言いたいことは言うが、言うべきことは言わない」と外部のステークホルダーからは、指摘され続けてきたのはなぜでしょうか?