日本の多くの地域で高齢化が進み、高齢者が生活必需品を購入するために遠方のスーパーまで移動することが困難になっている。公共交通の減少や運行間隔の長さがこの問題を悪化させている。高齢になったので免許証を返納したいが、そうすると買い物ができなくなるから自家用車を乗り続けざるをえないという人も多い。

 都市部でタクシーが捕まりにくいという問題もある。地方ではさらに深刻で、待ち時間が長い、または全く利用できないという事態が発生している。

 一部の地方都市では、公共交通が不十分なエリアを対象に、地方自治体や地域のタクシー会社が協力して、需要に応じた運行を行うライドシェアに似たサービスが試験的に導入されている。

 また自治体の中には、買い物難民の問題解決や交通アクセスの改善を目的として、例えば、地域内で住民が互いに車をシェアするシステムや、小規模ながら地域に特化したライドシェアサービスを実験的に行うことを検討しているところもある。

 だがこうした取り組みも限定的だ。

小手先の規制緩和では解決せず
混沌とする日本版ライドシェアの行方

 こうした事情を背景に、政府は、タクシー会社以外の事業者の参入を認めるかどうかを議論している。しかし、斉藤鉄夫・国土交通相は5月下旬、規制改革を担当する河野太郎・デジタル行財政改革担当相と面会し、タクシー事業者以外の参入について早急に結論を出すべきではないという考えを伝えた。

 さらに、斉藤国交相は「何十年もかけて培ってきた公共交通の適正な事業運営や、運転者の労働環境に大きな影響が生じる。導入しないで済むことがベストであると申し上げてきた」と語った。

 その後、河野担当相は、時間帯や台数を限定して運行されているライドシェアについて、7月から雨が予想されている場合は制限を緩和する方針を明らかにした。「1時間で5ミリ以上の降水量が予報される場合は、運行時間や台数の制限を緩和する」「時間外であっても雨が予想される場合は、ライドシェアを活用可能とする改善を7月1日から開始する」とし、都市部で制限が緩和された。

 政府は、日本版ライドシェアを全国に広げ、鉄道・バス事業者の参入も認める方針だという。

 しかし問題は、こうした技術的な細目や小出しの参入規制緩和といった小手先の対応ではなく、本来の形のライドシェアを認めるかどうかなのだ。

 技術的に可能であり、社会的な要請が強いにもかかわらず、業界の利益のために導入できないでいるのは、明らかに不合理な事態だ。

 業界の利害が絡む規制緩和が決して簡単に行えないことはよく分かる。しかし、タクシーを捕まえられず苦労している身からすると、原則自由化という方針を何とか実現してくれないかと祈らざるを得ない。

(一橋大学名誉教授 野口悠紀雄)