ライドシェアの全国展開は「百害あって一利なし」と言い切れるワケ写真はイメージです Photo:PIXTA

5月31日、内閣府の規制改革推進会議において、「規制改革推進に関する答申~利用者起点の社会変革~」が提示された。さまざまな項目が盛り込まれているが、今回の大きな主眼の一つは、「ライドシェア事業に係る法制度についての論点整理」である。政府はとにかくライドシェア新法を制定して、一刻も早く制限のないライドシェアを導入したいようだ。だが、答申は、事実誤認だらけで、支離滅裂な内容だ。「日本版ライドシェア」の全国展開は、「百害あって一利なし」と言い切れるワケについて、解説する。(政策コンサルタント 室伏謙一)

ライドシェア導入を目的としない
「日本版ライドシェア」

 ライドシェアとは、拙稿『ライドシェア解禁で「タクシー不足」加速?地方がたどりそうな“悲惨な末路”とは』で解説したとおり、「道路運送法の許可を受けずに、一般人、客を乗せて運転することについて無資格の素人が、自分の車で、有償で客を運ぶこと」であり、これまでは完全に違法であったが、4月より道路運送法第78条第3号に基づく自家用車活用事業として、限定的ではあるが合法的に実施することが可能となった。

 限定的にというのは、タクシー会社の管理の下で行われること、そして、地域および時間帯が限定されていることを意味する。

 すなわち、自家用自動車活用事業の許可を受けるのはあくまでもタクシー会社である。、個人が所有する自家用自動車を使うものの、当該自家用自動車の所有者、つまり運転者は、タクシー会社と契約を結んで自家用自動車活用事業に従事するのであり、自らが事業者として同法同条同号に基づく許可を受けて事業を行うわけではない。

 そして、この事業を実施できるのは、国土交通大臣が指定したタクシーが不足する地域、時期および時間帯のみであり、使用できる自家用自動車の台数も国土交通省の調査・分析に基づき算出され、国土交通大臣が指定した不足車両台数を超えて実施することは出来ない。

 要するに、この自家用自動車活用事業は、「日本版ライドシェア」と俗称されてはいるが、明確な数値的根拠に基づき、あくまでもタクシー事業を補完する目的で設計された制度である。

 つまり、タクシー需要に対して供給が不足する地域や時間帯について補完することを可能にするものであり、時間帯や地域に関わらず実施する、いわゆるライドシェアの導入を目的とするものではない。

 そのことは、本事業の実施について、3月29日付で各地方運輸局長および沖縄総合事務局長宛てに発出された通達の名称が、「法人タクシー事業者による交通サービスを補完するための 地域の自家用車・一般ドライバーを活用した有償運送の許可に関する取扱いについて」であることからも明らかである。

 そして、運行管理をタクシー会社の責任に係らしめ、許可を受ける主体をタクシー会社に限定しているのは、「安全・安心を前提に、地域交通の「担い手」「移動の足」不足を解消することを目的としている」からである。