共通ポイント20年戦争#35写真:時事通信フォト

日本初の共通ポイント、Tポイントの経済圏は後発の楽天ポイントとdポイントの攻勢によって縮小均衡に陥っていた。さらに、強力なパートナーを相次いで失ったTポイントは、起死回生の一打を狙う。それが、ライバルのdポイントを展開するNTTドコモとの資本提携である。だが、合意寸前にTポイントは三井住友フィナンシャルグループに乗り換える。長期連載『共通ポイント20年戦争』の#35では、Tポイントを巡る幻の合従の舞台裏を明らかにしていく。(ダイヤモンド編集部副編集長 名古屋和希)

Tポイントとファミマは資本提携を解消
ヤフーは脱退し、PayPay経済圏構築へ

 2019年11月、ファミリーマートは楽天ポイントとdポイントを導入した。長らくファミマを囲い込んできたTポイントの1強支配が崩れたのだ。これは単にファミマが3陣営のポイントの相乗りに踏み切っただけではない。実は、Tポイントのアライアンス戦略の崩壊の始まりを意味していた。

 ファミマは15年にカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)傘下でTポイントを運営するTポイント・ジャパン(現CCCMKホールディングス)に資本参加し、約15%の株式を保有していた。背景には、CCC社長の増田宗昭とファミマ会長の上田準二の“蜜月”があった。

 だが、上田が役員から退いたのち、ファミマはCCCとの関係性の見直しに踏み切る。19年4月、ファミマは保有するTポイント・ジャパンの全株式をCCC側に売却すると発表したのだ。関係者によると、CCCの買戻し額は130億円ほどだったとされる。ファミマのTポイント・ジャパン株の売却は楽天ポイントとdポイントの受け入れとセットである。ファミマとTポイントとの排他契約の終焉が、資本による強固な結び付きの必要性を失わせたのだ。

 このファミマの動きがさらなる遠心力を生む。ソフトバンクとヤフー(現LINEヤフー)が疑心暗鬼に陥ったのだ。CCCとヤフーは12年6月に戦略的資本・業務提携で基本合意し、13年には両社のポイントをTポイントに統一していた。リアルに強みを持つCCCと、オンラインで圧倒するヤフーの組み合わせは「最強タッグ」とも称された。ヤフーと親会社のソフトバンクの合計でTポイント・ジャパンの株式を35%も保有していた。

 ヤフーはファミマの脱退を危惧していた。ヤフー側からは、Tポイント・ジャパンとの関係を解消したファミマはTポイント陣営からの離脱を模索しているように映った。主力のファミマが仮に抜ければ、Tポイント経済圏は一気にしぼむ。「ファミマが抜けたら、うちも抜ける」。ヤフー社長の川邊健太郎はそう明言していたとされる。川邊はCCCとの提携を決めた宮坂学の後任に当たる。

 川邊の懸念を払拭しようとTポイント・ジャパン会長だった北村和彦が動く。北村が営業攻勢をかけたのが、コンビニ首位のセブン-イレブンである。北村は親会社のセブン&アイ・ホールディングス副社長の後藤克弘にTポイント導入を呼びかけた。

 北村はヤフー側にこんな強気な姿勢を示していたとされる。「セブンを取って、逆にファミマをお払い箱にします」。北村は逐一、セブンとのやりとりを川邊に報告していた。ヤフーを何としてもつなぎ留めたかったのだ。だが、セブンはTポイントに加わることはなかった。

 結局、Tポイント側はヤフーの不安の芽を取り除くことはできなかった。そして、ソフトバンクやヤフーは22年にTポイントとの関係解消を決め、自ら立ち上げたPayPayを柱に経済圏を育てていく道を選ぶことになる。

 ヤフーとソフトバンクとの提携解消は、CCCにとっては大打撃となった。特に携帯利用料と、ヤフーでTポイントが関与する売上高は合わせて1兆7000億円に上り、そこから多くのポイントが発行されていた。経済圏の力の源泉であるポイント流通額は大きく目減りすることになる。さらに、実務的な問題もあった。それが、22年3月末に控えるソフトバンクとヤフーが持つTポイント・ジャパン株の買い戻しのための資金の用立てである。

 20年度のTポイント・ジャパンの株式価値は400億円規模とみられていた。ソフトバンクとヤフーの持ち株を買い取るには、100億~200億円の資金が必要となる。ポイント事業の立て直しだけでなく、資金調達も見据えた、新たなパートナー探しが急務となったのだ。

 Tポイントの有力な提携先としては、流通大手のイオンの名前も浮上したが、最右翼となったのがライバルのdポイントを展開するNTTドコモだった。