歯医者「減少」時代#4Photo by Seiko Nomura

歯列矯正用マウスピース最大手インビザラインは、年間症例数で歯科医師をランク付けしている。このお墨付きは、2年前に歯科業界を揺るがした詐欺事件の引き金にもなった。最上位は年間1000症例以上を手掛けているといわれるが、その症例数の積み上げには「からくりがある」と、矯正専門の歯科医師たちは明かす。特集『歯医者「減少」時代』(全26回)の#4では、あたかも矯正のエキスパートかのように解釈されているインビザライン“年間1000症例”の正体に迫る。( ダイヤモンド編集部 野村聖子)

インビザライン治療の“名医”
「レッドダイヤモンド」の正体

「矯正治療実績において、2023年は1,796件の症例実績により『レッドダイヤモンド・プロバイダー認定医』を3年連続受賞いたしました」

 これは、とあるマウスピース矯正専門の歯科医院のホームページに記載されている文言だ。この歯科医院で使用されている「インビザライン」とは、米アライン・テクノロジーが開発した矯正治療システムで、マウスピース矯正市場で圧倒的なシェアを誇る。

 冒頭の歯科医院のホームページの記載によると、インビザラインの「プロバイダー認定医」には、年間症例数によってランクがある。院長が受賞した「レッドダイヤモンド」は年間症例数1000件以上の歯科医師に贈られる最上級のランクだという。

 レッドダイヤモンドについて「インビザラインを使用した矯正において、高い技術力と経験を有する医師であることを証明するものです」ともあり、マウスピース矯正を検討する患者にとっては非常に魅力的に映る。この歯科医院だけでなく、集患目的でインビザラインのランクを宣伝文句に使用している歯科医師、歯科医院は少なくない。

 しかし、当のインビザライン側によると、このプロバイダー認定医は歯科医師の技量を担保するものではない。また、「歯科医師本人、クリニックの宣伝、および集患に用いることはできません。インビザライン・ジャパンではこれまでにも幾度となく注意喚起を行ってまいりました」(アライン・テクノロジーの日本法人であるインビザライン・ジャパン)という。

 つまり、レッドダイヤモンドなどのランクは、冒頭の歯科医院のホームページに記載されたような「高い技術力と経験を有する医師であることを証明する」ものではない。歯科医師側が勝手にインビザラインから“お墨付き”を得たかのように喧伝しているだけなのだ。

 とはいえ、患者側は「年間1000症例以上」「高い技術力と経験を有する医師」と言われたら、その歯科医師は名医だと思ってしまう。実際、2022年には、インビザラインのレッドダイヤモンドと称する歯科医師が広告塔に使われた歯科医院によって、1000人以上の被害者を出した大型詐欺事件が起こっている。

 あたかも矯正のエキスパートかのように解釈されているインビザラインのプロバイダー認定医制度の正体とは何なのか。複数の矯正専門の歯科医師たちが「1人で年間1000症例をこなせるとは思えない」と首をかしげる、年間症例数の積み上げの裏側にも迫る。