価値観が多様化し、先行き不透明な「正解のない時代」には、試行錯誤しながら新しい事にチャレンジしていく姿勢や行動が求められる。そのために必要になのが、新しいものを生みだすためのアイデアだ。しかし、アイデアに対して苦手意識を持つビジネスパーソンは多い。ブランドコンサルティングファーム株式会社Que取締役で、コピーライター/クリエイティブディレクターとして受賞歴多数の仁藤安久氏の最新刊『言葉でアイデアをつくる。 問題解決スキルがアップ思考と技術』は、個人&チームの両面からアイデア力を高める方法を紹介している点が、類書にはない魅力となっている。本連載では、同書から一部を抜粋して、ビジネスの現場で役立つアイデアの技術について、基本のキからわかりやすく解説していく。ぜひ、最後までお付き合いください。
なぜ、あの人のアイデアは、
いつも応援されるのか?
自分のアイデアについて、周りの人たちから応援してもらうためには、何をどうすればいいのでしょうか?
まず、アイデアの伝え方というところから掘り下げていきましょう。
私が広告代理店でクリエイティブ職についていたとき、アイデアの「持ち寄り」という機会が多くありました。テレビCMやキャッチフレーズを考えることから、プロモーションのアイデアやバズを狙った企画やPRまで、クリエイティブ・ディレクターから持ち寄るべき「宿題」が出されて、その宿題を持ち寄り、発表し合う打ち合わせ会議が開かれます。
規模の大きな仕事では、プランナーの数も5人などとなり、他人のアイデアの発表を聞く機会も数多くあります。
そんなときに、先輩や同僚の中でもとりわけ案が採用されることが多い人がいました。
「この案を軸に膨らませていこう」とか、「これをベースにプレゼンを組み立てよう」などと採用されることが多い人には何があるのか、私は注意して観察するようにしました。
そうしたところ、ある発見がありました。
それは、企画自体がいいこともさることながら、その人の発表の仕方にもひと工夫があるように感じられたことです。
脳内でたどったプロセスを
そのまま話していく
私が注目するその人が実践していたのは、「思考のプロセスをそのまま伝えること」です。
アイデアを考えるときに、基本的にパッと思いついたという人は少なくて、前提条件や問題の整理や課題設定から考えていく人が多いと思います。そのときに、「脳内でたどったプロセスをそのまま話していく」と、他者に理解してもらいやすくなります。
「こう考えて、このようなアイデアに至りました。しかし、こういう理由でこのアイデアは難しいかなと思ったので、次に、このような仮説を立てて……」というように、自分が考えた過程を順番通りに話していくことがポイントのようです。
そうすると、感じ方や立場が異なる多くの人も、なぜか納得してくれることが多いです。
さらに、この方法の副次的効果として、チームや仲間とアイデアをつくるときに役立つ情報が含まれるということがあります。
たとえば、「この方向でアイデアを掘り進めても、こういう壁にぶつかる」という共有は、他のメンバーの時間の節約になります。
また、思考のプロセスを話す中で、他のメンバーが新たなアイデアの源となる「発想軸」を見つけられることにもつながります。
(※本稿は『言葉でアイデアをつくる。 問題解決スキルがアップ思考と技術』の一部を抜粋・編集したものです)
株式会社Que 取締役
クリエイティブディレクター/コピーライター
1979年生まれ。慶應義塾大学環境情報学部卒業。同大学院政策・メディア研究科修士課程修了。
2004年電通入社。コピーライターおよびコミュニケーション・デザイナーとして、日本サッカー協会、日本オリンピック委員会、三越伊勢丹、森ビルなどを担当。
2012~13年電通サマーインターン講師、2014~16年電通サマーインターン座長。新卒採用戦略にも携わりクリエイティブ教育やアイデア教育など教育メソッド開発を行う。
2017年に電通を退社し、ブランドコンサルティングファームである株式会社Que設立に参画。広告やブランドコンサルティングに加えて、スタートアップ企業のサポート、施設・新商品開発、まちづくり、人事・教育への広告クリエイティブの応用を実践している。
2018年から東京理科大学オープンカレッジ「アイデアを生み出すための技術」講師を担当。主な仕事として、マザーハウス、日本コカ・コーラの檸檬堂、ノーリツ、鶴屋百貨店、QUESTROなど。
受賞歴はカンヌライオンズ 金賞、ロンドン国際広告賞 金賞、アドフェスト 金賞、キッズデザイン賞、文化庁メディア芸術祭審査委員会推薦作品など。2024年3月に初の著書『言葉でアイデアをつくる。 問題解決スキルがアップ思考と技術』を刊行する。