価値観が多様化し、先行き不透明な「正解のない時代」には、試行錯誤しながら新しい事にチャレンジしていく姿勢や行動が求められる。そのために必要になってくるのが、新しいものを生みだすためのアイデアだ。しかし、アイデアに対して苦手意識を持つビジネスパーソンは多い。ブランドコンサルティングファーム株式会社Que取締役で、コピーライター/クリエイティブディレクターとして受賞歴多数の仁藤安久氏の最新刊『言葉でアイデアをつくる。 問題解決スキルがアップ思考と技術』は、個人&チームの両面からアイデア力を高める方法を紹介している点が、類書にはない魅力となっている。本連載では、同書から一部を抜粋して、ビジネスの現場で役立つアイデアの技術について、基本のキからわかりやすく解説していく。ぜひ、最後までお付き合いください。

どうしたら「たくさんのアイデア」を出せるようになるのか?Photo: Adobe Stock

なぜ、アイデアをたくさん出せないのか?

 次に、エレベーターのイライラを減らすためのアイデアに取り組んだときの、頭の中を思い出してみましょう。頭の中で「イライラの原因」は何かを考えることと、「解決の方法」を考えることをしていたと思います。

 それはそれでいいことですが、アイデアをたくさん出すことができなかった方は、この2つを頭の中で「同時に」行っていたのではないでしょうか。

 この「同時」ということが、たくさんアイデアを出すことができない理由のひとつかもしれません。10個以上出せなかったという人は、多くの場合、同時に行ってしまっていることが多いのです。

 同時に処理をすると、アイデア発想がストップしがちになる。
 同時に処理をすると、思考として同じところをぐるぐるしがちになる。

 だからこそ、まずは原因を見つければいい、のです。

 そもそも、何にイライラしていたのか。そこがはっきりとしてくると、どんなアイデアを出すべきかもはっきりしてきます。

 エレベーターが本当に来るのが遅くて、ボタンを押しても全然来ないからイライラしているのであれば、この時間を短縮させるようなアイデアが必要です。

 また、エレベーターの物理的な待ち時間ということよりも、待たされていると「感じさせていること」が原因だとしたらどうでしょうか。待たされていると「感じさせない」アイデアが必要になってきます。

 同じ「待ち時間が長いエレベーターに対するイライラ」だとしても、原因の設定によって出すべきアイデアは変わってきます。また、ここまで設定するからこそ、アイデアはより出しやすくなります。

「問題が起こっている現状」と
「問題が解決された理想の状態」を明確にする

 下図をご覧ください。問題が起こっている現状と、問題が解決された理想の状態を「はっきり」とさせていく。すると、現状と理想の差分が明確になります。この差分が「課題」です。

 このようにアイデアを発想するための土台づくりが必要です。今回は、イライラの原因の解像度を上げると言いました。場合によっては、このことを「課題設定」と呼んでもいいでしょう。

 私はよく「アイデアとは、A→A’をつくることだ」と言っています。

 Aが「問題が起こっている現状」で、が「問題が解決された理想の状態」です。このスタートとゴールをまず明確にした上で、アイデアを考えるようにしていきましょう。

 このAとA’を明確にしないでアイデア出しをしていると、アイデアとは何かユーモアがあるもの、何か突飛な考えのものでなければならないといった、間違った捉え方をするようになってしまいます。

(※本稿は『言葉でアイデアをつくる。 問題解決スキルがアップ思考と技術』の一部を抜粋・編集したものです)

仁藤 安久(にとう・やすひさ)
株式会社Que 取締役
クリエイティブディレクター/コピーライター

1979年生まれ。慶應義塾大学環境情報学部卒業。同大学院政策・メディア研究科修士課程修了。
2004年電通入社。コピーライターおよびコミュニケーション・デザイナーとして、日本サッカー協会、日本オリンピック委員会、三越伊勢丹、森ビルなどを担当。
2012~13年電通サマーインターン講師、2014~16年電通サマーインターン座長。新卒採用戦略にも携わりクリエイティブ教育やアイデア教育など教育メソッド開発を行う。
2017年に電通を退社し、ブランドコンサルティングファームである株式会社Que設立に参画。広告やブランドコンサルティングに加えて、スタートアップ企業のサポート、施設・新商品開発、まちづくり、人事・教育への広告クリエイティブの応用を実践している。
2018年から東京理科大学オープンカレッジ「アイデアを生み出すための技術」講師を担当。主な仕事として、マザーハウス、日本コカ・コーラの檸檬堂、ノーリツ、鶴屋百貨店、QUESTROなど。
受賞歴はカンヌライオンズ 金賞、ロンドン国際広告賞 金賞、アドフェスト 金賞、キッズデザイン賞、文化庁メディア芸術祭審査委員会推薦作品など。2024年3月に初の著書『言葉でアイデアをつくる。 問題解決スキルがアップ思考と技術』を刊行する。