価値観が多様化し、先行き不透明な「正解のない時代」には、試行錯誤しながら新しい事にチャレンジしていく姿勢や行動が求められる。そのために必要になのが、新しいものを生みだすためのアイデアだ。しかし、アイデアに対して苦手意識を持つビジネスパーソンは多い。ブランドコンサルティングファーム株式会社Que取締役で、コピーライター/クリエイティブディレクターとして受賞歴多数の仁藤安久氏の最新刊『言葉でアイデアをつくる。 問題解決スキルがアップ思考と技術』は、個人&チームの両面からアイデア力を高める方法を紹介している点が、類書にはない魅力となっている。本連載では、同書から一部を抜粋して、ビジネスの現場で役立つアイデアの技術について、基本のキからわかりやすく解説していく。ぜひ、最後までお付き合いください。
ある一枚の張り紙に書かれていた言葉とは?
これは、私が思いついたものではなく、弊社のCMプランナーでありクリエイティブ・ディレクターの岡部将彦が研修を行うときに、取り上げている例題です。
私も時々、研修において例題として使わせてもらっています。それは、次のような問題です。
「毎晩、毎晩、立ち小便をされて困っている家がありました。ところが、ある一枚の張り紙をしたところ、ピタリと立ち小便がやみました。さて、その張り紙に書かれていた『言葉』とは?」
少し想像を巡らせて、実際に考えてみてください。
さて、どんな答えが思い浮かんだでしょうか。
立ち小便をやめさせた画期的なアイデア
私が行うアイデアの講義において、この質問を投げかけると、たとえば、以下のような答えが返ってきます。
「監視カメラ作動中」
「でかでかと、神社の鳥居のイラストを描く」
「罰金10万円」
「ここで殺人事件が起こりました」
「立ち小便によって、木が枯れてしまいます」
などなど、多彩なアイデアが出てきます。
たしかに、これらのアイデアにも、一定の効果・効用はあるかと思います。
しかし、私は「模範解答」は別にあるのではないか、と投げかけます。
ちなみに、その答えは、下図のようなものです。
なぜこれが、模範解答なのか?
公衆トイレの場所を教えてあげれば課題は解決できるはず、というアイデアです。では、これが一体なぜ、模範解答なのでしょうか。
ここで着目すべきことは「立ち小便をする人は、トイレがあるならトイレで用を足したい。でも、トイレが見つからないので、ちょっと人目のつかないところで済ましてしまおう、という心理」にフォーカスしたことです。
行動を変えさせたい相手は、その家主を困らせようとしている悪人ではなく、自分がしている行為が悪いことだとわかりながらも、「やむにやまれぬ状況」で仕方なくしているということへの気づきがあります。
まさに、ターゲットのインサイトの発見があるわけです。
では、ここへの気づきがない、先ほど例に挙げたアイデアはどうでしょうか。
「そんなことはわかってる、でも仕方ないんだ」と塀に立ち小便されてしまう。
または、ここで立ち小便するとまずい、と思ってやめるかもしれませんが、「やむにやまれぬ状況」であることは変わらないので、「他の見つかりにくい場所」を探して、お隣の塀や、はす向かいの塀に立ち小便をするのではないでしょうか。
このように大事になってくるのが「インサイト」です。
いいアイデアには、必ずいいインサイトがある、と言っても過言ではないのです。
(※本稿は『言葉でアイデアをつくる。 問題解決スキルがアップ思考と技術』の一部を抜粋・編集したものです)
株式会社Que 取締役
クリエイティブディレクター/コピーライター
1979年生まれ。慶應義塾大学環境情報学部卒業。同大学院政策・メディア研究科修士課程修了。
2004年電通入社。コピーライターおよびコミュニケーション・デザイナーとして、日本サッカー協会、日本オリンピック委員会、三越伊勢丹、森ビルなどを担当。
2012~13年電通サマーインターン講師、2014~16年電通サマーインターン座長。新卒採用戦略にも携わりクリエイティブ教育やアイデア教育など教育メソッド開発を行う。
2017年に電通を退社し、ブランドコンサルティングファームである株式会社Que設立に参画。広告やブランドコンサルティングに加えて、スタートアップ企業のサポート、施設・新商品開発、まちづくり、人事・教育への広告クリエイティブの応用を実践している。
2018年から東京理科大学オープンカレッジ「アイデアを生み出すための技術」講師を担当。主な仕事として、マザーハウス、日本コカ・コーラの檸檬堂、ノーリツ、鶴屋百貨店、QUESTROなど。
受賞歴はカンヌライオンズ 金賞、ロンドン国際広告賞 金賞、アドフェスト 金賞、キッズデザイン賞、文化庁メディア芸術祭審査委員会推薦作品など。2024年3月に初の著書『言葉でアイデアをつくる。 問題解決スキルがアップ思考と技術』を刊行する。