空が青い理由、彩雲と出会う方法、豪雨はなぜ起こるのか、龍の巣の正体、天使の梯子を愛でる、天気予報の裏を読む…。空は美しい。そして、ただ美しいだけではなく、私たちが気象を理解するためのヒントに満ちている。SNSフォロワー数40万人を超える人気雲研究者の荒木健太郎氏(@arakencloud)が「雲愛」に貫かれた視点から、空、雲、天気についてのはなしや、気象学という学問の面白さを紹介する『読み終えた瞬間、空が美しく見える気象のはなし』の内容の一部を特別に紹介します。(初出:2023年9月30日)
雲は地震の前兆になるのか
まず強調しておきたいのは「雲は地震の前兆にはならない」ということです。
「地震雲」と呼ばれることの多い雲たちは、いたってありふれた雲です。
「地震雲」といわれることが多いのが「飛行機雲」です。飛行機雲には空を真っ直ぐ落ちているように見えるものもあれば、空を真っ直ぐ上に昇っているように見えるもの、湿った空でそれらが成長して竜巻のような見た目をしているものもあります。
悪魔の証明
大気重力波を可視化する波状雲なども地震の前兆ではないかと誤解されやすい雲です。
さらには、真っ赤に焼けた空や、赤い月や太陽も怖がられることがあります。これらの雲や空の現象は、大気で起きている現象であり、全て気象学で説明できます。
地下の活動が上空の雲に影響を与えるかどうかは、わかっていません。
気象庁や日本地震学会では、「地震雲という存在は証明されていない」という言い方をしています。科学的に中立な立場に立てば、これは正しい回答です。
ただ、存在しないことを科学的に証明するのは「悪魔の証明」といわれるように、非常に難しいのです。
一方で、気象学ですでに説明できている現象に、もし仮に地面の変化が何らかの影響を与えていたとしても、それを人間が雲の見た目から区別して認識するのはまず不可能です。だから、雲は地震の前兆にはならないと断言できるのです。
「地震雲」と「不安な気持ち」の関係
「これは地震雲ですか」と写真を送ってきた人に雲の説明をすると、大きく二通りの反応があります。
一つは安心したというもので、このような方は知らないだけで周りから「地震雲」の話を聞いて何となく不安に思っている、ということが多いようです。
もう一つは、雲の名前や仕組みを知ったとしても、不安が解消されないというものです。
以前、このように思われている方に「どうして不安に思うのか」と聞いてみました。
すると、社会情勢をはじめとした心配事で気分が落ち込んでいると、不安な気持ちを見慣れない雲に投影してしまうのではないか、と自己分析されたのです。
「地震雲」の正体
対話を通して、「地震雲」の正体が見えてきたような気がしました。地震が心配なら、まずは日頃から備えをすることが重要です。
その上で、雲の変化が何を表しているのかを知るようにすると、防災意識をよりいっそう高めることになるでしょう。雲は天気の変化を知る目安にはなるのです。
人間が見慣れないものやわからないものを怖いと思うのは、当然の感情です。雲を知ることで、一歩を踏み出し、いずれは楽しいと感じるようになると思います。
そして、雲を楽しめるようになれば、不安な気持ちを雲に重ねてしまうこともなくなると思います。雲の面白さを伝え、一緒に楽しむことを広げていきたいものです。
(本原稿は、荒木健太郎著『読み終えた瞬間、空が美しく見える気象のはなし』から抜粋・編集したものです)
雲研究者・気象庁気象研究所主任研究官・博士(学術)
1984年生まれ、茨城県出身。慶應義塾大学経済学部を経て気象庁気象大学校卒業。地方気象台で予報・観測業務に従事したあと、現職に至る。専門は雲科学・気象学。防災・減災のために、気象災害をもたらす雲の仕組みの研究に取組んでいる。映画『天気の子』(新海誠監督)気象監修。『情熱大陸』『ドラえもん』など出演多数。著書に『すごすぎる天気の図鑑』『もっとすごすぎる天気の図鑑』『雲の超図鑑』(以上、KADOKAWA)、『世界でいちばん素敵な雲の教室』(三才ブックス)、『雲を愛する技術』(光文社新書)、『雲の中では何が起こっているのか』(ベレ出版)、新刊に『読み終えた瞬間、空が美しく見える気象のはなし』(ダイヤモンド社)などがある。
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