空が青い理由、彩雲と出会う方法、豪雨はなぜ起こるのか、龍の巣の正体、天使の梯子を愛でる、天気予報の裏を読む…。空は美しい。そして、ただ美しいだけではなく、私たちが気象を理解するためのヒントに満ちている。SNSフォロワー数40万人を超える人気雲研究者の荒木健太郎氏(@arakencloud)が「雲愛」に貫かれた視点から、空、雲、天気についてのはなしや、気象学という学問の面白さを紹介する『読み終えた瞬間、空が美しく見える気象のはなし』の内容の一部を特別に紹介します。
台風の名前と「台風委員会」
私たちが「台風」と呼ぶ低気圧は、発生場所によって名前が変わります。北西太平洋や南シナ海では台風、インド洋ではサイクロン、北大西洋ではハリケーンと呼ばれています。
アジアには一四の国と地域で構成される「台風委員会」という政府間組織があり、アジアと極東地域における台風被害への対策と実施について協力して行われています。
二〇〇〇年以降は、台風の国際的な名称として「アジア名」を定めています。台風の発生順に、各国で提案された合計一四〇個のあらかじめ用意された名前を順番に使っているのです。日本からは一〇個、「ウサギ」「コンパス」など星座由来の名前が使われています。
「クラウドクラスター」とは?
さて、台風は、どうやって発生するのでしょうか。
赤道より少し北に、風の集まる「熱帯収束帯」があります。ここでは、太平洋高気圧からの北東風の貿易風と、赤道を超えて南から吹く南東風の貿易風がぶつかっています。
熱帯収束帯上で発生した積乱雲が群れのように集まると、「クラウドクラスター」が発生します。積乱雲は発達すると内部で凝結が起こり、潜熱を放出して空気を温めます。
そのため、クラウドクラスターがあるところでは地上気圧が下がり、渦を巻いて発達して熱帯低気圧になることがあります。そして、熱帯低気圧の中心付近の最大風速(十分間平均風速の最大値)が一七・二メートル毎秒以上になると、「台風」と呼ばれるようになります。
台風の発生に重要なのが、海水温です。水深六〇メートルまでの海水温が二六度以上であることが、台風発生条件の一つです。台風の発達は、海からの熱の供給と、台風を作っている積乱雲からの潜熱の放出をエネルギー源としています。
台風の「眼」
台風の風が強まると、海水をかき混ぜるため、台風通過後の海域は海面付近の水温が下がります。海水温が下がることで台風の勢力が衰弱することもあります。
台風の発達や衰退には、海水温が非常に重要です。台風は発達すると、中心に「眼」の構造ができます。台風内部では、内向きには「気圧傾度力」、外向きには「遠心力」がかかっているのですが、中心付近でその二つがほぼ釣りあい、それより内側に風が入り込めない状態になります。
するとその内側は風が穏やかで雲ができにくい台風の「眼」になるのです。