職場には「いつも人間関係で悩んでいる人」と「まったく人間関係で悩んでいない人」がいる。一体、何が違うのだろう?
本連載では、ビジネスパーソンから経営者まで数多くの相談を受けている“悩み「解消」のスペシャリスト”、北の達人コーポレーション社長・木下勝寿氏が、悩まない人になるコツを紹介する。
いま「現実のビジネス現場において“根拠なきポジティブ”はただの現実逃避、“鋼のメンタル”とはただの鈍感人間。ビジネス現場での悩み解消法は『思考アルゴリズム』だ」と言い切る木下氏の最新刊『「悩まない人」の考え方 ── 1日1つインストールする一生悩まない最強スキル30』が話題となっている。本稿では、「出来事、仕事、他者の悩みの9割を消し去るスーパー思考フォーマット」という本書から一部を抜粋・編集してお届けする。

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 Kさんは一車線の細い道路を自動車で走っていた。
 法定速度で安全運転をしていたにもかかわらず、後ろから猛スピードでやってきたクルマが、彼女の後ろにピタリとついた。

 さらにエンジンを吹かしながら、ギリギリまで車間距離を詰めてくる──いわゆるあおり運転だ。

 あまりにも危険な状況を見かね、助手席にいたKさんの友人が
「いっそのこと、どこかで脇に停めて道を譲ったら?」
 と提案する。

 しかし、Kさんは憮然とした表情でこう言った。

「譲らないよ。あおり運転をしてくるほうが100%悪い。
 こっちは法定速度で走っているんだし、ぶつけられても向こうの責任。
 ドライブレコーダーで証拠は残るから大丈夫」

 いつもは温厚なKさんからの思わぬ返答に、友人は言葉を失う。

 彼女は「自分がケガをしてでも相手に責任を問いたい」という考えだった。
 ハンドルを握ると性格が変わるタイプなのだろうか……。

 Kさんと同じ状況に置かれたとき、どうするかをぜひ考えてみてほしい。

 彼女と同じようにそのまま運転するか?
 それとも、友人の提案どおりいったん停車するか?
 何かそれ以外のアクションも考えられるかもしれない。

 こういった場面での思考グセにも、その人の「悩みやすい/悩みづらい」が反映される。

「相手が変わるべき病」と「関係性を変える主義」

 ほとんどの悩みは、人間関係から生まれるといわれる。
 だれにでも「どうにもうまくかみ合わない人」はいる。

 同僚・上司・取引先など仕事で顔を合わせる人、学生時代からの友人・知人、近所づきあいがある人、家族や親戚など人によってさまざまだろう。

「嫌いで仕方がない人」とぶつかったとき、どのように対処すればいいのだろうか?

「相手を変えよう」とするのはおすすめできない。
 本書やこの連載を読んだ方ならわかるだろう。

 問題の原因を「相手」の中に見る人は、「相手が変わるべき」という結論になる。

 しかし、相手がこちらの望むように変わることはまずない。
 だから、問題はいつまで経っても解決しない。

「相手が変わるべき病」にかかっている人が、必ずといっていいほど「人間関係の悩み」にとらわれるのにはこういう理由がある。

 一方、「悩まない人」は、問題の原因を「人」の中に見ない。

 あくまでも人(自分)と人(相手)との「関係性」に問題が起きていると考える。

 そして、両者の「関係性」を変えることで、問題を解消しようとする。

 この「関係性」を変える方法は2通りある。
「相手を変える」か、「自分を変える」かのどちらかだ。

 しかし、前者はうまくいかないので、後者のほうがはるかに手っ取り早い。

職場にいる「不快で仕方がない人」への対処法

 職場にいる同僚のLくんのことが嫌いで仕方がないとしよう。

 彼のやることなすことがどうにも気に食わず、見ているだけで不快感がこみ上げてくる。自分でもなぜこんなに彼のことが嫌なのかよくわからない。

 このとき最悪なのは、Lくんの変化を期待すること。
 彼の性格がいきなり変わることはないし、勇気を出して注意・指摘しても、彼に変化が起きる保証はない。
 むしろ、互いの関係性がますます悪化し、職場での時間が不愉快になるだけである。

 そこで「自分を変える」ことになる。
 このとき、いちばん手近なオプションは、彼から距離を取ることである。

 極端なことをいえば、席を離す、リモートワークに切り替え、顔を合わせないようにする、別の部署に異動願いを出すといった手が考えられる。

 しかし、なかなかそうはいかないケースも多いだろう。
 そこでやるべきは、自分を「Lくんを不快に思わないように」変えることである。

 本書ではフランクルのエピソードを紹介した。
 彼は「強制収容所に閉じ込められた状況」はどうにもできなかったが、そのときに「絶望する自分」と「希望を持ち続ける自分」のどちらを選ぶのかは自分次第だと気づいた。

 それと同様、Lくんを変えるのは難しいかもしれない。
 けれども、「彼を不快に思う/なんとも思わない」の選択肢は、じつはいくらでもコントロールできる。

 たとえば、職場にLくんのことを不快に思っていない人がいたとして、その人に「なぜ不快に思わないのか?」を聞いてみる。

 すると、「どのような価値観を持てば/どのような対処法を取れば、Lくんを不快に思わなくなるのか」のヒントが得られるはずだ。

 後はその価値観・対処法を取り入れさえすれば、「Lくんを不快に思わない自分」をつくることができる。

 こうなると、Lくんと自分との関係性には、何も問題が起きなくなる。

 これが「自分を変える」ことで「関係性」を変えるやり方である。

「相手が変わるべき病」と「全部自分のせい病」の共通点

 こういう話をすると、
「なぜこっちが変わらないといけないんですか? 悪いのは向こうですよ」
 という返答がよくある。

「相手が変わるべき病」の人は、人間関係の衝突を「だれが悪い?」の問題に還元してしまう。
 そして、「◯◯さんが悪い。だから◯◯さん(悪い人)が変わるべき」という思考ループから抜け出せなくなる。
 前出の運転手のKさんもそのタイプだ。

 一方、人間関係に「悩まない人」にとっては「だれが悪い?」はどうでもいい。

「悪い人」の改善ではなく「悪くなっている関係性」の改善だけにフォーカスし、そのために最適な手段を考えていく。

 他方、「自分を変えるべき」というアドバイスを間違って理解し、「相手が変わるべき病」が治癒する代わりに、「全部自分のせい病」にかかってしまう人もいる。
 他人との問題が起きたときに「自分が悪い」と考え、自分を責めてしまうのである。

「相手が変わるべき病」と「全部自分のせい病」は、じつは本質的には同じである。

 なぜならどちらも、人間関係の衝突を「人」の問題として見ているからだ。
 それが「相手」なのか「自分」なのかの違いである。

 他人とぶつかったときに「悩まない人」は、たしかにすぐ「自分を変えよう」とする。

 しかしそれは、「悪いのは自分だから、自分が変わるべき」と考えてのことではない。

 そうではなく、自分と相手とのあいだにある「悪い関係性」をなんとかしたいと考え、そのために「自分を変える」という“いちばん簡単な手段”を選んでいるにすぎない。

なぜマネジャーは「人」に働きかけてはいけないのか

 私はマネジメントに携わる人たちからもよく相談を受けるが、ほとんどの悩みはここまで語ってきた一連の枠組みで解消できてしまう。

「部下のやる気がありません。どうすればやる気を出させることができますか?」

 このような悩みは、問題の所在を「部下」に見ている点で、「相手が変わるべき病」の一種である。

 目標達成に向けた手段には、「人を変える」という不確実なことを盛り込んではならない。

 マネジャーの役割は「部下を変えること」ではなく、「部下にやる気を出させること」でもない。

「部下を通じて成果を出すこと」──これに尽きる。

 となれば、答えは明らか。
部下が変わらなくても成果が出る仕組み」をつくりさえすればいい。
 問題は「人」の内部ではなく、外部(仕組み)にある。

 世の中には、「マネジメント=人を管理する仕事」という誤解がはびこっている。

 しかし、マネジャーはいきなり「人」に働きかけてはいけない。

 そこを間違えるから、マネジャーたちは悩むことになるのだ。

 マネジャーの仕事は「仕組み」に働きかけることだ。

 それぞれのメンバーにやる気があろうとなかろうと、その中で一定の成果が出る仕組みをつくれていれば、マネジャーは職務を全うしているといえる。

 逆に、どんなにやる気にあふれたチームをつくろうと、成果が出ていないなら、その人はマネジャー失格である。

「あおり運転」をされたときの考え方

 ここまでの内容をベースにしながら、先ほどのあおり運転の例をもう一度考えてみよう。

 Kさんは問題の原因が「後ろの運転手」にあると考え、「あおり運転をしてくるほうが100%悪い」と語っていた。

 だから、相手が変わることを期待し、道を譲ることなくそのまま走り続けた。

 場合によっては、事故が起こって相手の責任が明るみに出たほうがいいとすら思っている節がある。

 その結果、「あおり運転をされている」という問題は消えずに残り、運転中、Kさんは事故の危険にさらされた状態を続けることになる。

 一方、「悩まない人」は、問題が「人(Kさん)と人(後ろの運転手)の関係性」にあると考える。

 つまり、事故が起きるかもしれない現在の状況にフォーカスする。

 ここまでの流れから考えると、後ろのクルマが急にあおり運転をやめるのは期待しにくい。

 だとすると、自分がどこかで一時停車し、後ろのクルマを先に行かせるのが、この「悪い関係性」を改善する最も効果的な手段となる。

 だから「悩まない人」は、迷わず道を譲ることができる。
 それは「遅く走っている自分が悪い」と考えたからではない。
 そうするのが問題の解消にはいちばん手っ取り早いからである。

 自分が歩いている先に、犬のフンが落ちていたら、だれでも黙って避けるはずだ。

 犬のフンが自らどいてくれるわけがないし、飼い主を見つけてきて片づけさせるようなこともしない。

 ただ、ひょいと自分の進路を変えるだけ。「自分を変える」ほうが手っ取り早いからだ。

「あおり運転」と「犬のフン」に違いはない。
 犬のフンを避けるのと同じ思考アルゴリズムを働かせれば、あおり運転も避けられるはずだ。

 自分を変えるときに、「自分が悪い」と考える必要はない。
 それでは結局、悩むことになってしまう。

「悩まない人」は、我慢して自分を押し殺しているわけではない。
 常に「関係性の改善」にフォーカスしているので、「自分を変える」というオプションを躊躇なく選択しているだけである。

(本稿は『「悩まない人」の考え方──1日1つインストールする一生悩まない最強スキル30』の一部を抜粋・編集したものです)