アリスタゴラ・アドバイザーズ会長の篠田丈氏 Photo by Wataru Mukaiアリスタゴラ・アドバイザーズ会長の篠田丈氏 Photo by Wataru Mukai

お金持ちになりたい人は多いのに、お金持ちについて知っている人は少ない――。平均資産が30億円に上る超富裕層を顧客にプライベートバンク事業を展開するアリスタゴラ・アドバイザーズ会長の篠田丈氏に「お金持ちになる人の頭の中」を解説してもらう短期集中連載。第5回のテーマは「FIRE」。FIREを夢見てケチケチと節約に励む若者が気づいていない、あまりに“大きい代償”とは?(構成/田之上 信)

日本人はFIREと
相性が悪い

 近年、注目を集めている「FIRE」。「Financial Independence, Retire Early」の頭文字をとったもので、経済的自立をして、仕事の早期リタイアを実現するというものです。

 米国で2018年のリーマン・ショック後、30~40代を中心に投資の収益で生活費をまかない、早期リタイアする人が増えたとされています。

 具体的には、年間支出の25年分の資産をつくり、それを平均年4%で運用すればいいというものです。たとえば、資産が1億円(400万円×25)あれば、それを平均年4%で運用すれば400万円の利益が得られます。生活費が年間400万円だとすれば、運用益と支出がトントンとなるので資産を減らすことなく生活できます。

 日本でもこの「FIRE」が一部でもてはやされ、30~40代で早期リタイアを目指す人たちが増えているようです。

 個人的な見解ですが、「FIRE」は米国人らしい発想だと感じます。米国には日本のような国民皆保険制度がないなど社会保険制度が脆弱です。労働力の流動性も高く、キャリアプランにしろライフプランにしろ、また老後の備えにしても多くは個人の努力と責任に委ねられています。

 そうした社会、文化において、貯蓄に励んで「FIRE」を目指すという生き方を選ぶ人がそれなりにいるのは理解できます。

 「FIRE」はまた、富裕層や資産家を目指すのではなく、基本的にミニマリストの発想といえます。生活を切り詰めて貯蓄し、早期リタイアした後も質素な生活を送ることが前提となるからです。

 人それぞれ人生の価値観がありますから、本人がそれで満足ならいいのでしょうが、私から見ると、それで本当に楽しいのかという気がします。「FIREが人生の夢」というのはあまりに寂しい話ではないでしょうか。