言葉の魔術師として知られる古舘伊知郎さんが、自らを「平凡な人間」「ニセモノ」と語りながら、天才たちの中で生き抜いてきた方法とは。新著『伝えるための準備学』を上梓した古舘さんにインタビューした「後編」をお届けする。綿密な準備と、日常の中で見つけた言葉の収集術、そして開き直る姿勢に迫る。(構成/田之上 真、編集/三島雅司)
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無口から実況へ、
言葉が開花した瞬間
――著書『伝えるための準備学』によると、古舘さんはもともと話すことが苦手だったそうですね。
子どもの頃は無口でしたね。母と姉はよくしゃべり、僕はそれを黙って聞いているような感じで、自分自身、「無口」だと思い込んでいました。
それが変わったのは、立教高校時代です。ある日の昼休み、同級生がチャペルの中庭の芝生でプロレスをはじめたんです。
遊びとはいえ、次第にエスカレートし、ボールペンを凶器にして、額から血が流れ出るほどの流血の殴り合になりました。それで男子生徒がどんどん集まり、150人くらいたでしょうか。
戦いが白熱していく中で、その光景を見ながら突然、何かが自分の中で突き上げてきたんです。
「さあ、どうなる! このチャペルの鐘音を血みどろに染め抜いて……」とか、勝手に口から言葉があふれ出てきて、目の前で繰り広げられるプロレスを実況していました。
そしたら、周りの生徒たちから「オー! おまえ、実況うまいじゃん!」なんてほめられて、もううれしくて、うれしくて。俺、ウケるじゃんと。