夏休みが終わればいよいよ入試に向けての仕上げの時期にはいってきます。どのようにして最終的な志望校を確定するのか、過去問はどのように進めればよいのか? 塾がお膳立てしてくれる最難関校はともかく、それ以外の学校を志望している子の親御さんは意外に情報がないといいます。子どもを本当に伸ばしてくれる志望校の見極め方や選び方、その志望校に合格するための効果的な「過去問対策」をやり方を、大人気プロ家庭教師の安浪京子先生が詳細に説明した『中学受験 大逆転の志望校選びと過去問対策 令和最新版』から抜粋して、そのノウハウの一部をご紹介します。
処理能力と入試問題のミスマッチ
実は、「テスト」において大きな鍵を握るのが「処理能力」です。
処理能力を軸に人を分類すると「処理能力が高い(スピードが速い)」「処理能力は中程度」「処理能力が低い(スピードが遅い)」となります。
Jちゃんは「処理能力が低い」タイプでしたが、第一志望は「女子学院」。
制限時間が短いにもかかわらずそれなりに問題数がある典型的な「処理型」タイプの学校です。そのため、過去問を解いても制限時間内に半分強しか解けません。しかし、時間内に解けなかった問題に、再度チャレンジしてみると、時間をかければほぼ正解できます。
これは子どもの処理能力と入試で必要な処理能力の不一致です。時間をかければ解けても、入試には制限時間があります。
ここで取るべき手は2つとなります。すなわち「処理能力を上げる」か「むやみにスピードを上げず、解いた問題の正答率を上げる」かです。
思考スピードは人によって異なります。これは良い悪いではなく、その人が最大パフォーマンスを発揮できるスピードがどこにあるか、という話です。
知り合いの東大名誉教授のA先生は、「熟考型」です。大人数で話をしていても、丁々発止で議論が進んで行く中、タイムラグがあって「先ほどの話ですがね……」と切り出されます。ずっとご自身の中でひっかかる点を咀嚼し、納得のいく解を探しているのです。
一方、B先生はポンポンと言葉が出てくるタイプ。どんどん新たなネタを提供し、場を盛り上げていらっしゃいました。
私は典型的な「処理型」ですが、夫は「熟考型」です。
一緒に入試問題を解くと、私は全部埋めているがミスもあり80点、夫は全体の8割までしか到達していないが(2割は未着手)80点、ということがあります。つまり、処理能力と正答率は関係ありません。
1問あたりにかけられる時間を知る
入試問題は学校によって、制限時間も問題数も異なります。そこで、学校によって1問あたりにかけられる時間が異なる点を知っていただくべく、作成したのが「算数 処理力マトリクス」(P.262~269)です。
「算数 処理力マトリクス」では、
縦軸:偏差値
横軸:1問あたりにかけられる時間
として、各学校をプロットしました。
ただし、1問あたりにかけられる時間が同じとはいえ、「桜蔭」と「慶應中等部」では問題の難度が全く異なります。「渋谷学園幕張」は「浅野(神奈川県)」の2倍も時間をかけて考えられるからラッキー、という単純な話ではありません。
算数は基本的に偏差値が高くなるほど典型題が減って思考題が増える「思考型」、つまり難度が高くなるため、「偏差値が高いけれど1問あたりにかけられる時間が短い」学校には要注意、ということになります。
入試問題は一般的に、前半の小問や大問中の枝問前半〔大問5の(1)(2)など〕は比較的短時間で、大問中の枝問後半〔大問5の(3)(4)など〕は時間がかかる、という構成になっています。
このマトリクスの所要時間はそれらすべてを平均していますので、簡単な問題はより短時間で解き、解く時間を貯金していけるようになるのが理想です。
処理能力の相性は大きな鍵
本書の「処理力マトリクス」は算数の入試問題で作っていますが、処理能力を求めるか否かは学校によって傾向があるので、他科目もほぼ同様ととらえることができます(もちろん、学校によって、また年度によっても異なります)。これは模試では見えてこない部分です。
繰り返しになりますが、処理能力の高低は、良い悪いではありません。熟考型の子に処理型の学校対策をするのは、効果があれば良いですが、効果が上がらないということもあり得ます。
第一志望や第二志望に関し、偏差値ではある程度現実が見えているご家庭も多いと思いますが、処理型か否かも「大きな鍵」になることをぜひ知っておいていただきたいと思います。
*本記事は、『中学受験 大逆転の志望校選びと過去問対策 令和最新版』(安浪京子著・ダイヤモンド社刊)から抜粋・編集して作成したものです。