三田紀房の投資マンガ『インベスターZ』を題材に、経済コラムニストで元日経新聞編集委員の高井宏章が経済の仕組みをイチから紐解く連載コラム「インベスターZで学ぶ経済教室」。第139回は「住宅ローンの残高を見る度に憂鬱になる…」という人へアドバイスを送る。
「貯金は三角、保険は四角」は本当か?
生保レディの安ヶ平真知子の「貯金は三角、保険は四角」という解説に、主人公・財前孝史は、必要な保障額が減少していく実態を考えれば契約者のニーズとズレがあると指摘する。その背景には一定額の保険料を長期で払わせたい保険会社の思惑があると喝破する。
「保険は四角」は保険セールスの定番ネタだ。貯蓄は時間がかかる「三角」だが、保険は契約すればすぐ「万が一」への備えがすぐ整う四角形だ、という理屈だ。
これに対する「保険こそ、右肩下がりの三角であるべきだ」という財前の反論は極めて的確だ。子どもが小さいうちは厚めの保障が必要だが、大学の学費のメドが立つなり、親元から巣立つなりしてくれれば、保険で万が一に備える必要は薄れる。
以前、この連載の「【マンガ】「お父さん、バカじゃないの?」持ち家vs賃貸、おいしいとこどりを狙うなら」の回で書いたように、私自身は財前流の三角形型保険としてマンションを購入した。住宅ローンを保険代わりに使う発想だ。
住宅ローンは団体信用生命保険とセットだ。契約者の私が死ねば、何千万円かの借入残高はチャラになり、物件が家族に残る。
時間の経過とともに、返済が進んでローン残高=保険金額は減っていく。まさに右肩下がりの三角形タイプの合理的な保険として機能する。残高が減って利払いが年々縮小するのも、保険料の減少と考えると理にかなう。
賃貸の家賃とローン返済額、利払いと保険料との差、不動産価格の変動リスク、リセールバリューなどの要素を勘案した結果、本来は賃貸派なのにマンションを買った。必要な保障額として購入予算を逆算し、頭金なしの全額ローンで資金は賄った。
高額物件ではなく手ごろな中古マンションにしたのは、すでに死亡保障と収入保障の保険を契約していたので、「死んだらチャラ」の借金を大きくするより、不動産価格の下落リスクを抑えた方が良いという判断だった。
これは、後講釈では選択ミスだったのだろう。思い切って都心の新築タワマンでも買っていれば、値上がりをもっと享受できていた可能性が高い。しかし、求めたのはあくまで「保険」なので悔いはない。
高井さんが「年に1回」やっていること
この戦略をとる場合、死亡保障額の減少につながってしまうので、住宅ローンの繰り上げ返済はあまり得策ではない。
巨額の借金を背負っているのは気が重いし、繰り上げ返済すると計算上はお得だから余裕ができると返したくなるのが人情。だが、貯蓄か投資と両建てにしておいた方が万が一の備えを厚くできる。頭金ゼロも同様の発想による選択だ。
ローンの残高を見るのが憂鬱という方には、家庭版の貸借対照表(バランスシート)を作るのをおススメしたい。
住宅については、物件の推計時価からローン残高を差し引いて正味価値を算出する。返済が進むと正味価値がプラス(=物件を売れば現金が残る)なのが可視化できる。さらに「すぐに返済に回せる貯蓄額」とのバランスを見れば、実質的な資産・負債状況を確認できる。
私は投資や貯蓄、退職金などもふくめて年1回程度、バランスシートを更新している。大変そうに聞こえるかもしれないが、ザックリと全体像を把握する目的なので、精緻につくっているわけではない。2~3時間で終わる作業だ。
その代わりと言うと変だが、毎月の家計簿はつけていないし、資産運用の成績もあまりチェックしていない。何年か見比べて、バランスシートが改善していればそれで良し、ということにしている。