インベスターZで学ぶ経済教室『インベスターZ』(c)三田紀房/コルク

三田紀房の投資マンガ『インベスターZ』を題材に、経済コラムニストで元日経新聞編集委員の高井宏章が経済の仕組みをイチから解説する連載コラム「インベスターZで学ぶ経済教室」。第124回は、不動産投資の定石「人気校の近くを狙え」の真偽に迫る。

教育と不動産価格の一石二鳥?

 不動産屋の営業マン・秋山は、賃貸に回してインカムゲインを稼ぐなら、私立の名門小学校のそばの物件が狙い目だと語る。「お受験」を目指す入居者が安定して確保できるため、空室リスクを抑えられるという。

「人気の学校の近くを狙う」は、特に東京都内の不動産投資では定石だろう。私自身、十数年前に中古マンションを購入した際には、区立中学校の学区をベースに物件を選んだ。投資目的ではなかったが、我が家の三姉妹の教育と不動産のリセールバリューを確保する一石二鳥を狙った。

 検討を重ね、最終的に地域で2番目の人気校の学区内の物件に決めた。1番人気の中学校周辺のマンションの相場は地域平均と比べて2~3割高く、築年数の古い物件が多かった。コストとベネフィットのバランスを考えて2番人気で妥協した。

 そのマンションは学区内の端に位置していて、目の前の道路を渡ると別の学区だった。たった1本の道を挟んだだけで、1割強は中古物件の相場に差があった。駅からの距離や環境はさほど違わないのに、学区の違いでそれほど不動産価格には差がつく。

 ところが、せっかく評判の良い中学校の学区を選んだのに、長女が6年生になる直前になって突然、中学受験をすると言い出した。志望校は区外の都立中高一貫校だった。

 長女が見事受かり、楽しく通っている姿を見ていた次女、三女も「同じ学校がいい」と続き、結局、誰も地元の中学には進まなかった。学区を吟味した私の苦労は空振りに終わった。マンションの資産価値を維持できただけでも、徒労ではなかったと思いたい。

ロンドンで直面「学校と不動産」の謎ルール

漫画インベスターZ 14巻P183『インベスターZ』(c)三田紀房/コルク

「学校と不動産」という問題には、ロンドン駐在時代にも悩まされた。当時、高校生、中学生、小学生だった三姉妹も帯同し、それぞれ地元校に通学することになった。高校生だった長女は私立のカレッジに入ったのだが、問題は次女と三女の公立校だった。

 定員がいっぱいの場合、自治体の「入学待ちリスト」に登録して空きが出るのを待つ仕組みなのだが、このリストが申し込み順ではなく「学校からの直線距離が近い順」という意味不明なシステムだったのだ。リストの上位に居ても、すぐ近所に希望者が引っ越してくればそちらが優先されてしまう。

 なぜそんな謎ルールになっているのか理解に苦しんだが、ちょっと調べてみたら、確かに評判の良い学校を中心に同心円のように賃料相場が出来上がっているように見えた。

 地元民に聞くと、子どもの進学のタイミングで学校の近くに引っ越す人もいるという。幸い、次女と三女は少し待たされただけで無事入学できたが、ただでさえバカ高いロンドンの家賃にひそむトラップに冷や汗をかいた。

 不動産投資にもケインズが株式市場の本質を言い表した「美人投票」という比喩は通用する。美人投票の勝者=値上がりする物件を見抜くためには、自分の好みではなく、「他の投票者は誰を美人だと思うか」を予想しなければならない。

 高い値が付くのは、あなたが住みたい家ではなく、多くの人が住みたいと思う物件だ。学校からの距離というファクターは、その代表例だと言えるだろう。

漫画インベスターZ 14巻P184『インベスターZ』(c)三田紀房/コルク
漫画インベスターZ 14巻P185『インベスターZ』(c)三田紀房/コルク