三田紀房の投資マンガ『インベスターZ』を題材に、経済コラムニストで元日経新聞編集委員の高井宏章が経済の仕組みをイチから解説する連載コラム「インベスターZで学ぶ経済教室」。第117回は「持ち家vs賃貸」の永遠の論争を掘り下げる。
賃貸派がマンションを買ったワケ
主人公・財前孝史と藤田慎司の三番勝負の2回戦は不動産投資がテーマとなった。不慣れな分野に戸惑いつつ、財前は自宅の資産価値に着目。物件価格やローン金利、諸経費などを考慮してみて、持ち家を買った父の選択を「バカじゃないの?」と疑問視する。
「持ち家vs賃貸」論争は熱いテーマだが、価値観やライフプランによって「どちらも正解」になり得る。メリット・デメリットは言い尽くされている感があるので、ここでは個人的な体験と考え方を書いてみる。
私は本来賃貸派なのだが、10数年前にマンションを購入した。現在は自分のマンションは人に貸していて、自分は一軒家を借りている。
賃貸志向なのは「家」というモノへの執着がないのが大きい。三姉妹の成長に伴って同居人数も変わるだろうから、その時々で適正サイズで便利な場所に住みたい。オーソドックスな賃貸派の考え方だろう。
それでも2000年代半ばにマンションを買ったのは「2つの保険」のためだった。
ひとつは生命保険。ローンに三大疾病の特約も付けたので、稼ぎ手である私が死ぬか働けなくなったら借金は消えて家族にマンションが残る。「家賃兼保険料」の感覚で月々のローンの支払いが収まる手ごろな中古物件をみつけて全額ローンで購入した。
頭金なしにしたのも生命保険の発想だ。その方が万が一の時にチャラになる借金が大きくなる。住宅ローンはサラリーマンにとって長期・低利で銀行融資を受けられる最大のチャンス。借り入れ後、繰り上げ返済は一切せず、余裕資金は資産運用に回す。借金と資産を両建てでキープして備えている。子どもが成長するにつれてローン残高=保険金額が減るのも理にかなっている。
2つ目の「保険」とは?
マンション購入でかけたもうひとつの「保険」は地価上昇リスクへの備えだった。先見性があったわけではない。当時は「資産価値は年々下がる可能性が圧倒的に高い」と考えていたが、予想が外れた場合に備えるのがリスク管理であり保険だ。結果的に都内のマンション価格上昇の恩恵を受けられたのは嬉しい誤算だった。
あくまで「子どもが小さいうちの期限付き保険」として買ったので、所有するマンションは大きく育った三姉妹と夫婦の5人には手狭すぎる。現在、手ごろな一軒家を借りて住めているのは偶然の結果だ。
2016年にロンドンに赴任する際にマンションを貸しに出し、今に至るまで「貸出中」となっている。定期借家としなかったのでいつ帰れるか分からないのだが、おかげで目先は家族事情に合った物件を選べる賃貸派のメリットを享受している。
振り返ってみて、今のところ私の取った戦略は悪くない選択だったと思う。無理なローンを組んででも都心の新築タワマンを買っていれば大儲けだっただろうが、それは結果論でしかない。私が求めたのは人生全般のリスクを下げる保険であって、不動産投資のリスクを取るつもりはなかった。
念のため付記しておくと、上記の私の例も「正解」なわけではない。「持ち家か、賃貸か」はケース・バイ・ケースで自分自身の答えを見つけるしかない問題なのだ。なお、私は住宅ローンを組む際、全額を変動金利型で借り入れた。紙幅が尽きたので、なぜそうしたかは次回に説明することとしよう。