米シリコンバレーのベンチャーキャピタル(VC)企業にとって、有望なスタートアップを見つけることは簡単だ。難しいのは投資を回収することだ。
データ提供会社ピッチブックによると、米国のVC企業は昨年、投資家への分配金が260億ドル(約4兆0300億円)と、2011年以来の低水準となった。スタートアップ投資家は2024年もこの傾向が続いていると指摘しており、投資活動は高水準であるものの、買収案件や新規株式公開(IPO)は少ないという。
投資会社コーチュー・マネジメントの共同創業者トーマス・ラフォント氏は最近の会合で「われわれは多額の資金を調達したが、ほとんど還元していない」と述べた。「業界全体で資金が流出している」
米VC企業の昨年の投資額は回収額を600億ドル上回った。これはピッチブックがデータを収集してきた26年間で最大の「赤字」だ。その結果、大学基金や年金基金などVC企業に出資する投資家は、業界が長年にわたって生み出してきた利益を得られていない。
この減少は特に注目に値する。なぜなら過去3年間は、ピッチブックのデータがさかのぼることができる1998年以降で、VC企業の投資総額が最も多かった3年間だったからだ。
最近は投資額の多くが人工知能(AI)スタートアップに流れている。AIは大きな注目を集める分野で、評価額が急拡大し、新たな技術の開発に急ピッチで資金をつぎ込んでいる。
IPOの凍結
スタートアップは従来、非公開市場では集められない多額の資金を調達するために、創業から数年後にIPOを行う必要があった。また、上場は従業員が持ち株を売却する唯一の方法でもあった。
しかし今ではVC企業自体がIPOの必要性を低下させている。近年、多くのVC企業は規模を拡大し、無期限でスタートアップに資金を提供できるようになったほか、いわゆるテンダーオファーを通じて従業員が保有する株式を買い取ってもいる。
加えて、テクノロジー分野のスタートアップの魅力が薄れ、かつてほど公開市場の投資家を引き付けられずにいる。代わりに投資家は、AIの恩恵を受けて企業価値が急上昇している大手ハイテク企業から巨額のリターンを享受している。
コーチューの最近のプレゼンテーションによると、現在、企業価値が10億ドル以上のスタートアップ(いわゆるユニコーン企業)は1400社以上ある。全ての企業に投資家がいて、富を得る機会をうかがっている。
オープンAIが先月、過去最高の66億ドルを調達し、企業価値が1570億ドルに達した後、投資家は同社がイグジット(投資資金の回収・利益の獲得)に向かうことを切望していた。