世界同時株安の背景には、加熱気味だった投資家の誤解や失望がある。マイクロソフトやインテルなど、大手AI関連企業は設備投資を積み増してきたが、その収益化には時間がかかることが分かったのだ。米国の景気減速によって一部の有力投資家は、割高感のある米国株を売り、現金で滞留させたり、一部を金(きん)に振り向けたりしている。株価下落とは対照的に、金価格がリーマンショック後の高値を更新したことは、世界経済の先行き不安を示唆する。(多摩大学特別招聘教授 真壁昭夫)
株価「乱高下」の根本的要因は?
7月下旬以降、世界的に株式市場が不安定な展開になっている。要因の一つは、米国経済の後退懸念が高まっていることだ。今年5月まで、米国の労働市場はタイトに推移してきた。実質賃金は高止まりし、個人消費は堅調な展開を維持した。米国は世界経済全体のけん引役を果たしてきたといえる。
ところが、6月に入ると、労働市場の改善ペースが少しずつ鈍化し、低所得層など個人消費は徐々に勢いを失い始めている。7月の米雇用統計では、就業者数が予想以下の伸びとなり、失業率が予想以上を上回り景気後退の不安は高まった。
また、株式市場を先導してきた、米IT先端企業の収益の伸び率にも不透明感が出始めた。AI分野での初期投資は一巡したとみられる。問題は、AI関連の投資が多額になる一方、それに見合った収益をすぐには上げられないことだ。4~6月期の米IT企業の決算を確認すると、予想したほどAIビジネスの収益は増えていない。AI分野では今後も多額の追加投資は必要だが、短期的には収益が上がらないことが懸念される。それも、投資家のAI関連銘柄に対する意識を変化させただろう。
政治リスクの上昇も気がかりだ。11月の大統領選挙後も、米国の社会分断は深刻化する可能性がある。政治リスクが高まると、投資家はリスクを取りづらくなり、米国の景気減速が鮮明化する可能性もありそうだ。こうした状況から、株式など価値の変動リスクを削減する投資家が増えている。