変化が激しく先行き不透明の時代には、私たち一人ひとりの働き方にもバージョンアップが求められる。必要なのは、答えのない時代に素早く成果を出す仕事のやり方。それがアジャイル仕事術である。『超速で成果を出す アジャイル仕事術』(ダイヤモンド社)は、経営共創基盤グループ会長 冨山和彦氏、『地頭力を鍛える』著者 細谷 功氏の2人がW推薦する注目の書。著者は、経営共創基盤(IGPI)共同経営者(パートナー)でIGPIシンガポール取締役CEOを務める坂田幸樹氏。業界という壁がこわれ、ルーチン業務が減り、プロジェクト単位の仕事が圧倒的に増えていくこれからの時代。組織に依存するのではなく、私たち一人ひとりが自立(自律)した真のプロフェッショナルになることが求められる。本連載の特別編として書下ろしの記事をお届けする。
誰でもすぐに答えを得られる時代
皆さんは、仕事で行き詰ったときにまず何をしますか?
多くの人が上司にアドバイスを求めるのではないでしょうか。よほど意地悪な上司でなければ、一定の指針を示してくれたり、考え方のコツを教えてくれたりするでしょう。
また、最近ではChatGPTなどの生成AIを使って質問する人もいるかもしれません。生成AIは、ピンポイントの答えを即座に提供してくれます。もちろん、プロンプト(質問)の質に大きく依存しますが、どのような問いに対しても何らかの答えを返してくれるのは、非常に便利です。
現実世界には答えなど存在しない
では、そのようにして得られた答えをただ実行すれば、すべてが解決するのでしょうか?もちろん、そんなに単純ではありません。なぜならば、環境が常に変わり続ける現実世界には、唯一解は存在しないからです。
たとえば、上司の助言を基に新製品を企画しても、競合が一足先に発売してしまえば、その新製品の価値が大きく低下するかもしれません。あるいは、生成AIが提案してくれた観光地への旅行を企画したにもかかわらず、季節外れの豪雨に見舞われてしまえば、予定通り楽しむことは難しいでしょう。
現実世界では、常に不確定要素がつきまといます。一つの答えに固執するだけでは、成功を確実なものにするのは難しいでしょう。
どれだけたくさんオプションを持っているか
答えのない世界で成果を上げるために重要なのは、一つの答えを追い求めることではなく、可能な限り多くのオプションを持っておくことです。
前述の新製品の企画で言えば、一つの製品だけに集中するのではなく、競合の動きに備えて複数の製品を並行して企画しておくことが考えられます。また、旅行の話で言えば、雨天用の計画をあらかじめ準備しておくことで、予期せぬ天候の変化にも柔軟に対応できます。
2022年の夏に『アジャイル仕事術』を出版して以来、生成AIの進化によって世の中が大きく変わりました。過去の事例を探すだけでなく、それらを基に新しいアイデアを生成することができるというのは画期的です。生成AIにお願いすれば嫌な顔一つせずに、千個でも一万個でもアイデアを生み出してくれます。
しかし、こうしたAIの時代においても、最終的に価値を生み出すのは「人」です。人が持つ柔軟性や独創性こそが、新しい時代の競争力を形作ります。このような変化の中で、アジャイル仕事術の価値はさらに高まったと言えるでしょう。
アジャイル仕事術が、皆さんが多様なオプションを生み出し、柔軟に変化へ対応する力を身につける一助となれば幸いです。
株式会社経営共創基盤(IGPI)共同経営者(パートナー)、IGPIシンガポール取締役CEO
早稲田大学政治経済学部卒、IEビジネススクール経営学修士(MBA)
大学卒業後、キャップジェミニ・アーンスト&ヤングに入社。その後、日本コカ・コーラ、リヴァンプなどを経て、経営共創基盤(IGPI)に入社。現在はシンガポールを拠点として日本企業や現地企業、政府機関向けのプロジェクトに従事。細谷功氏との共著書に『構想力が劇的に高まる アーキテクト思考』(ダイヤモンド社)がある。『超速で成果を出す アジャイル仕事術』(ダイヤモンド社)が初の単著。