変化が激しく先行き不透明の時代には、私たち一人ひとりの働き方にもバージョンアップが求められる。必要なのは、答えのない時代に素早く成果を出す仕事のやり方。それがアジャイル仕事術である。『超速で成果を出す アジャイル仕事術』(ダイヤモンド社)は、経営共創基盤グループ会長 冨山和彦氏、『地頭力を鍛える』著者 細谷 功氏の2人がW推薦する注目の書。著者は、経営共創基盤(IGPI)共同経営者(パートナー)でIGPIシンガポール取締役CEOを務める坂田幸樹氏。業界という壁がこわれ、ルーチン業務が減り、プロジェクト単位の仕事が圧倒的に増えていくこれからの時代。組織に依存するのではなく、私たち一人ひとりが自立(自律)した真のプロフェッショナルになることが求められる。本連載の特別編として書下ろしの記事をお届けする。
完璧を目指しすぎる人が陥る落とし穴
皆さんは普段、何点を目指して仕事をしていますか?
多くの人は、成果物をできる限り100点に近づけたい、完璧に仕上げたいと考えるものです。日本の教育では、テストで100点を取ることが良いとされ、私たちはその考え方に慣れ親しんでいます。そのため、仕事においてもついつい「100点を目指す」姿勢で臨みがちです。
しかし、ビジネスの世界では、絶対的な基準に基づく100点というものは存在しません。自分が考える100点が、他者にとっては過剰であったり、不十分であったりすることが少なくないのです。
さらに、完璧を目指すあまり、仕事の進行が遅れたり、必要以上にリソースを費やしてしまうことも少なくありません。例えば、プレゼン資料のデザインや細部に時間をかけすぎるあまり、本来重視すべき内容に集中できない、といったケースが挙げられます。
こうした完璧主義の罠から抜け出し、スピードと質を両立させるためには、相手の評価基準を明確にし、それを満たすことを優先する考え方が重要になります。
完了主義で仕事の効率を最大化する
仕事が速い人たちが共通して意識しているのは、「完了主義」という考え方です。完了主義とは、100点を目指すのではなく、受け手の基準を満たすことを最優先に考えるアプローチです。
この考え方では、自分にとっての「完璧」ではなく、相手が求める基準に応じた「十分な完成度」を重視します。特にビジネスの現場では、相手の期待値を事前に把握し、どの程度の仕上がりが必要なのかを明確にすることが仕事の迅速化および効率化の鍵となります。
例えば、企画書やプレゼン資料を作成する際、求められているのはシンプルでポイントが伝わりやすい構成かもしれません。その場合、デザインに凝りすぎるのではなく、必要な情報を簡潔にまとめることが最善です。その後、必要に応じて同僚や上司からフィードバックを得て、必要な部分を改善する流れを採用します。
この方法を取ることで、完璧を目指す場合に比べて時間を有効活用できるだけでなく、他者の視点を取り入れた質の高い成果物が得られる可能性も高まります。
100点を目指さないことで得られる成果
このように、完了主義を取り入れることで、リソースを効率的に使い、無駄を省きながら、相手の期待に応える成果物をスピーディに提供することが可能になります。
さらに、全体的な仕事の質を結果的に高める効果も期待できます。受け手の基準を理解することで、リソースを本当に必要な部分に集中させることができ、過剰な労力をかけずに効率的に目標を達成できます。さらに、タスクを迅速に完了させることで、他の業務に割ける時間やエネルギーが生まれ、全体のパフォーマンスが向上します。
すべてのタスクを同じ基準で完璧に仕上げようとするのではなく、優先順位を明確にして、重要な部分に集中して他のタスクを素早く処理する能力を身につけることができるため、限られたリソースの中で最大の成果を引き出すために、必要不可欠な考え方だと言えるでしょう。
アジャイル仕事術では、完了主義を実践するための考え方をはじめ、働き方をバージョンアップする方法を多数紹介しています。
株式会社経営共創基盤(IGPI)共同経営者(パートナー)、IGPIシンガポール取締役CEO
早稲田大学政治経済学部卒、IEビジネススクール経営学修士(MBA)
大学卒業後、キャップジェミニ・アーンスト&ヤングに入社。その後、日本コカ・コーラ、リヴァンプなどを経て、経営共創基盤(IGPI)に入社。現在はシンガポールを拠点として日本企業や現地企業、政府機関向けのプロジェクトに従事。細谷功氏との共著書に『構想力が劇的に高まる アーキテクト思考』(ダイヤモンド社)がある。『超速で成果を出す アジャイル仕事術』(ダイヤモンド社)が初の単著。