見逃していたとすれば許してほしい。しかしわれわれには、ドナルド・トランプ氏が米大統領選で、パナマに侵攻し同国の有名な運河を取り戻す公約を掲げたという記憶はない。しかしトランプ氏は先週末、中米の同盟国であるパナマに対し、要求に応じなければ罰を与えると脅しをかけた。
トランプ氏はアリゾナ州フェニックスで聴衆を前に、「われわれの海軍と商船は非常に不公正で無分別なやり方で扱われてきた。パナマが請求している運河通航料はばかげており、非常に不公平だ。米国が非常に愚かなことながら、パナマに並外れた寛大な対応を取ったことを考えると特にそう思う。わが国に対するこの完全なぼったくりはすぐに終わるだろう」と語った。
同氏はさらに、「われわれは、パナマ運河が全面的に、迅速に、そして疑いなく米国に返還されるよう要求する。私は現状を受け入れるつもりはない。そこでパナマの当局者たちに伝えよう。(こちらの意向に沿って)適切な対応を取ってほしい」と付け加えた。
この方針の発端は何だろうか。幾人かの海運王がトランプ氏の耳元でささやいたのか。パナマのホセ・ラウル・ムリノ大統領はすぐにトランプ氏に反論し、パナマは自国の利益を守ると述べた。トランプ氏は自身のソーシャルメディア「トゥルース・ソーシャル」に投稿し、「どうするつもりか見たいものだ」と述べた。
では、トランプ氏は何を企てているのか。侵略だろうか。南北アメリカ大陸を再びウィリアム・マッキンリー米大統領とセオドア・ルーズベルト米大統領の時代のイメージのようにしたいのだろうか。
幾つかの事実を挙げれば、パナマが米国人に対して「ぼったくり」を行っているというトランプ氏の主張は事実無根であることが分かる。どの船舶も、船籍に関係なく、重量(トン)と船舶種別に応じた共通の料金を払っている。完成品を運ぶコンテナ船の料金は、ばら積み船よりも高い。料金全体の約75%が通行料で、25%はタグボートや曳船(えいせん)機関車などによる支援サービスの料金だ。