米国でトランプ政権時代に国防次官補代理を務めたエルブリッジ・コルビー氏。もし、再びトランプ氏が大統領になった場合、高確率で“第2次政権”にかかわると言われる超重要人物である。米国内の雰囲気が「もしトラ」から「ほぼトラ」へ移りつつあるとも指摘される中、コルビー氏にインタビューを敢行した。取材中、日本の態度に対して怒りの感情をあらわにし、語気を強めるシーンもあった。(国際ジャーナリスト 大野和基)

日本は軍事防衛にもっと注意を向けよ
政府はあまりにもスロー

――あなたは米国の「2018年国家防衛戦略」を主導した立役者ですが、『拒否戦略 中国覇権阻止への米国の防衛戦略』(原題『The Strategy of Denial』)を執筆した狙いを聞かせてください。中国の覇権奪取の動きを「拒否」するためには何が必要でしょうか。

エルブリッジ・A・コルビーエルブリッジ・A・コルビー
非営利シンクタンクのマラソン・イニシアティブ共同設立者・代表。ハーバード大学卒業。イェール大学ロースクール修了(JD)。イラクの連合暫定施政当局、国家情報長官室を含め、核戦力、軍備管理、情報分野を中心に米国政府の重要ポストを歴任。2017~18年に、米国防総省国防次官補代理(戦略・戦力開発担当)を務め、18年に公表された「国家防衛戦略」の策定では主要な起草者として重要な役割を果たした。また、米国のシンクタンクである海軍分析センターや新アメリカ安全保障センター(CNAS)で上級研究員を務め、CNASでは19年まで防衛プログラム部長として防衛問題の調査研究で指導的立場にあった。

 まず、世界は分断され、もはや1つのまとまった世界(unipolar)ではないので、米国には新しい防衛戦略が必要であるということです。この本を執筆したのはウクライナ戦争が起きる前でしたが、今の世界情勢は安定した状況ではなく、台湾を巡る戦争が起きる確率はかなり高いと言えます。

 米国は、世界における立ち位置と基本的な戦略を再検討しなければなりません。そして、それは日本にも当てはまります。第二次世界大戦後、日本は米国の防衛の傘下で生存してきたからです。われわれは“大きな氷山”に接近している状況であり、今、船の向きを変えないと氷山にぶつかるのは時間の問題です。

 武力外交(power politics)が米日の関係性を定義していることは周知の事実でしょう。米国の軍事力、特に海軍の力は、かつてロシアや中国や北朝鮮のそれよりもはるかに大きいものでした。だから、つい最近まで日本に対する脅威など一度もなかったでしょう。中国や北朝鮮から日本に対する脅威が現れたのは、ここ数年のことです。

 一方で、日本人の多くがこうした国際関係のリアルに、アレルギー反応を示すような感情を持ち、理想郷的な見方をしていると私は思います。本書は、なぜ日本がもっと現実的になり、軍事防衛にもっと注意を向けないといけないかを明確かつ論理的に説明しています。日本政府は今その点に注意を向け始めていますが、あまりにもスローです。