2025年の新興国経済は、米国のトランプ新政権の通商政策に右往左往させられるだろう。特集『総予測2025』の本稿では、メキシコやインド、ブラジルなど2025年の主要新興国経済について、関税をはじめとするトランプ政策の影響と見通しを分析する。(第一生命経済研究所 経済調査部 主席エコノミスト 西濵 徹)
関税を取引材料にしてきたトランプ氏
貿易に冷や水で輸出依存度の高い国は厳しく
2025年の世界経済は、米国のトランプ次期政権の誕生とその政策運営に大きく揺さぶられると予想される。新興国もトランプ政権の通商政策に右往左往させられるだろう。
ドナルド・トランプ氏は米大統領選挙のさなか、中国やメキシコを念頭に追加関税を課す方針を示したほか、24年11月末には、大統領就任直後にメキシコとカナダに25%、中国に10%の追加関税を課す大統領令を発令する方針を明らかにしている。
なお、トランプ氏は前政権の際も、関税をディール(取引)の材料としてきた。これを鑑みれば、追加関税が実際に発動されるかどうかは依然不透明だ。とはいえ関税の影響は貿易のみならず、投資にも及ぶ点には留意が必要である。
新興国には輸出依存度の高い国が多い。従って、近年のグローバル化の進展を追い風にした世界貿易の活発化は、多くの新興国にとって、輸出拡大をけん引役とする景気拡大を促す一助になってきたと考えられる。
ただ、ここ数年は、米中摩擦やコロナ禍、ウクライナ戦争などを機とした分断の広がりとともに、世界貿易も萎縮して伸び悩み、新興国経済の足かせとなる展開が続いてきた。
一方、世界的なサプライチェーン見直しの動きを受け、足元では世界貿易に底入れの兆しが見られる(下図参照)。
とはいえ、トランプ政権による関税を盾にした「ディール外交」が、再び冷や水を浴びせることが予想される。その結果、輸出依存度の高い新興国が厳しい環境となることは避けられないだろう。
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