半導体の重要性は近年増すばかりですが、大量の半導体を必要とする生成AIの普及により、政治的にも経済的にも一層の注目を集めることになりました。一個人にとっても、今や半導体についての知識はビジネスや投資で成功するために欠かせないものとなっています。
この連載では、今年1月に新たに発売された『新・半導体産業のすべて』の一部を抜粋・編集し、「3分でわかる世界の半導体企業」をコンセプトに紹介していきます。今回は半導体の設計において圧倒的な存在感を示す、アーム(ARM)について解説します。

スマホ向けプロセッサIPの世界シェアは95%!
売上高 26億7900万ドル(2023年)
従業員 6500名
アームはイギリスのケンブリッジに本社を置く、大手IPプロバイダーです(1990年に設立)。もともとの名称は、Acorn RISC Machineでしたが、その後Advanced RISC Machine Ltd.に改称され、現在のARMという社名に至っています。
以前の社名に入っていたRISC(リスク)とは、マイクロプロセッサのアーキテクチャであるReduced Instruction Set Computer(縮小命令セットコンピュータ)を表わしています。これからわかるように、アームはもっぱらRISCマイクロプロセッサのIPを提供するプロバイダーです。RISCに対して、インテルなどのアーキテクチャはCISC(Complex Instruction Set Computer:複雑命令セットコンピュータ:シスク)と呼ばれます。
アームは半導体の設計に特化している企業で、ライセンス料が主な収入源です。とくにスマホ向けプロセッサIP(設計資産)の世界シェアは95%を超えるとも言われ、圧倒的な存在感を示しています。
スマホのOS(Operating System:オーエス)には、アップルのiPhoneシリーズに使われているiOS(アイオーエス)やグーグル社が開発したAndroid(アンドロイド)がありますが、どちらのプラットフォームにもアームの技術やIPを利用したチップが搭載されています。
2016年にソフトバンクグループがアームの全株式を買収し、世間を驚かせました。当時、筆者はある友人から、「今度の買収についてどう思うか」と聞かれ、「お得な買い物じゃないかな」と答えたのを憶えています。結果的には筆者が考えていた以上にお得だったようです。
2020年にはエヌビディアがアームの全株式を4.2兆円で買収するという発表がありましたが、2022年に断念。理由は、各国当局が、市場独占化の懸念などにより不承認としたためです。その後、ソフトバンクグループはアメリカナスダック市場にアームを上場しています。
アームは、アップル、グーグル、マイクロソフトなどの巨大IT企業やエヌビディア、クアルコムなど大手半導体企業をカスタマーとして抱えており、自動車、白物家電、IoT、スマートウォッチなどのIP市場にも進出しています。さらに、AI市場のデータセンター向けではエヌビディアとのパートナーシップを強化しています。
1944年樺太生まれ。東京大学工学部物理工学科を卒業。日本電気(株)に入社以来、一貫して半導体関係業務に従事。半導体デバイスとプロセスの開発と生産技術を経験後、同社半導体事業グループの統括部長、主席技師長を歴任。(社)日本半導体製造装置協会専務理事を経て、2007年8月から(株)半導体エネルギー研究所顧問。2024年7月から内外テック(株)顧問。著書に『入門ビジュアルテクノロジー 最新 半導体のすべて』『図解でわかる 電子回路』『プロ技術者になる! エンジニアの勉強法』(日本実業出版社)、『半導体・ICのすべて』(電波新聞社)、『「電気」のキホン』『「半導体」のキホン』『IoTを支える技術』(SBクリエイティブ)、『史上最強図解 これならわかる!電子回路』(ナツメ社)、『半導体工場のすべて』(ダイヤモンド社)など多数。