やってもやっても仕事が終わらない、前に進まない――。そんな状況に共感するビジネスパーソンは多いはずだ。事実、コロナ禍以降、私たちは一層仕事に圧迫されている。次々に押し寄せるオンライン会議やメール・チャットの返信、その隙間時間に日々のToDo処理をするのが精いっぱいで、「本当に大切なこと」に時間を割けない。そんな状況を変える一冊として全米で話題を呼び、多くの著名メディアでベストセラー、2024年年間ベストを受賞したのが『SLOW 仕事の減らし方』だ。これからの時代に求められる「知的労働者の働き方」の新基準とは? 今回は、本書の邦訳版の刊行を記念して、その一部を抜粋して紹介する。
あなたの時間をくいつぶす「間接コスト」
知的労働者が何か仕事を引き受けるときには、それが軽いタスクであれ大きなプロジェクトであれ、かならず「間接コスト」がかかってくる。間接コストとは、本来の作業を進めるために必要な周辺作業のことだ。
たとえば、情報をすり合わせるためのメールのやりとり。同じ仕事に関わっている人たちとのミーティング。こうした間接コストは、新しい仕事をひとつ引き受けるたびに発生する。
やることリストが増えれば、そのぶん間接コストも積み重なる。増大する間接作業は限りある作業時間をどんどん食いつぶし、本来やるべき仕事に取り組む時間がなくなってしまう。
仕事量が適切であれば、ちょっと煩わしい程度ですむかもしれない。どうも仕事が思ったように進まないな、とストレスを感じる程度だ。
でも仕事量が増えてくると、やがて間接作業のコストが臨界点を超える。するとタスクを管理するための作業が1日のスケジュールの大半を占めるようになり、既存のタスクを終わらせるだけの時間がとれなくなる。そこからは負のスパイラルだ。
やるべき仕事はどんどん積み重なり、何ひとつ前に進まず、間接作業だけで1日が終わっていく。会議に続く会議、そのバックグラウンドでひっきりなしに流れてくる新着メールやチャット。
本来の仕事ができるのは業務時間外だけだ。夜間や早朝、週末をつぶしてなんとか仕事を進めるしかない。今までにないほど忙しいのに、進捗はもう絶望的だ。
(本稿は、『SLOW 仕事の減らし方~「本当に大切なこと」に頭を使うための3つのヒント』(カル・ニューポート著、高橋璃子訳)の内容を一部抜粋・編集したものです)