やってもやっても仕事が終わらない、前に進まない――。そんな状況に共感するビジネスパーソンは多いはずだ。事実、コロナ禍以降、私たちは一層仕事に圧迫されている。次々に押し寄せるオンライン会議やメール・チャットの返信、その隙間時間に日々のToDo処理をするのが精いっぱいで、「本当に大切なこと」に時間を割けない。そんな状況を変える一冊として全米で話題を呼び、多くの著名メディアでベストセラー、2024年年間ベストを受賞したのが『SLOW 仕事の減らし方』だ。これからの時代に求められる「知的労働者の働き方」の新基準とは? 今回は、本書の邦訳版の刊行を記念して、その一部を抜粋して紹介する。

「仕事の効率がいい人」だけが守っている“たった1つのルール”Photo: Adobe Stock

「ゴール」は1日1つだけに絞り込む

 1日に取り組むプロジェクトはひとつだけ、それ以上は手をつけない。

 といっても、一日中それしかやらないという意味ではない。働いていればミーティングもあるし、メールの返信や書類仕事も発生するだろう(こうした小さなタスクを手なずける方法については次のセクションで検討する)。

 それは必要に応じてこなしつつ、「今日達成すべきゴール」をひとつのプロジェクトに絞り込むのだ。

 僕にこのやり方を教えてくれたのは、マサチューセッツ工科大学(MIT)の博士課程にいたときの指導教員だ。分散アルゴリズム理論研究の創始者の一人でもある彼女は、きわめて生産性の高い研究者だった。

 僕が複数の論文をせわしなく行き来して読んだり、本の執筆とコンピュータサイエンスの研究を同じ日に進めようとするのを見て、いつも首をひねっていた。彼女はというと、一度にひとつのプロジェクトだけに没頭し、それが完全に手を離れてから次のプロジェクトに着手するのだった。

 若かった僕は、とてもそんなふうにはできなかった。1日にひとつの仕事だなんて、そんな悠長なことは言っていられない。とにかくできるだけ多くのプロジェクトに手をつけて、全部同時に進めるのが効率的だと思い込んでいた。

1日1つなら、着実に、前進できる

もちろん僕は間違っていて、指導教員が正しかった。

 1日にひとつの目標にコミットするほうが、ぶれずに着実に成果が出せる。焦りや不安に振りまわされず、しっかりと前進できる。

 その場ではペースが遅いと感じるかもしれないが、数か月単位で俯瞰してみれば、どちらが結果につながるかは一目瞭然だ。大学院生だった20代の頃は視野が狭くて見えなかったけれど、今では指導教員のやり方がすぐれていると自信を持って言える。

(本稿は、『SLOW 仕事の減らし方~「本当に大切なこと」に頭を使うための3つのヒント』(カル・ニューポート著、高橋璃子訳)の内容を一部抜粋・編集したものです)