「40年ほど前から日本では“競争”が悪とされてきました。ですが、そこには副作用もありました」
そう語るのは、著書『先生、どうか皆の前でほめないで下さい』がベストセラーになるなど、メディアにも多数出演する金間大介さん。金沢大学の教授であり、モチベーション研究を専門とし、その知見を活かして企業支援もおこなっています。
その金間さんの新作が『ライバルはいるか?』です。社会人1200人に調査を行い、世界中の論文や研究を調べ、「誰かと競う」ことが人生にもたらす影響を解き明かしました。挑戦する勇気を得られる内容に、「これは名著だ!」「人生のモヤモヤが晴れた!」との声が多数寄せられています。この記事では、本書より一部を抜粋・編集して、「協調至上主義誕生の背景と、その副作用」を紹介します。
「競争相手」のいない世界
「誰が自分のライバルかなんて、考えたことなかったです」
「ライバル関係なんて、職場ではもうほとんど聞かない」
「それって、あくまで漫画とか映画の世界の話でしょ」
企業勤めの人にライバルに関する質問をすると、大抵こういった声が返ってくる。競争についても同様だ。国内の大企業に勤めるマネジャーたちにヒアリングしてみると、こんな返答を得た。
「うちの会社では、あえて競争させるといった仕組みはもうほとんどないですね」
「そもそも社内で『競争』という言葉はまず使わないです」
「競争するなんて、今は研修で行うゲームの中くらいかも。いや、研修でももう競争はさせないか。意図的に競わせようとするとハラスメントになるんじゃないですか」
どうやら、もう多くの日本企業にとって、「ライバル」や「競争」がない状況は自然なことのようだ。
令和に入った今、日本ではライバルや競争は日常社会から排除されてしまった。漫画や映画の世界の中だけに存在し、むやみに現実に導入するとハラスメントにすらなりかねない。
このような共通意識は、どのように構成されたのだろうか。
徹底的な競争悪を語る「40年前の論文」
現在の脱競争(あるいは嫌競争)社会と言えるような状態になるまでの道のりは、そう遠いものではない。日本人が盛んに競争していた時代は、それほど古いものではないのだ。
まずは少し前の日本、具体的には70~80年代の日本において、競争がどのように扱われていたかを簡単に振り返ってみる。過去を紐解くのはやや骨が折れるが、とくに問題意識を持ったときのそれは学びとなることも多い。以下に、1984年に発行された論文「競争と二種類の不安」(河野義章・根本恵美子)の一部を引用する。
学校での教育原理は理想的には、協同──すなわち成員が力を合わせてひとつの目標を達成すること──であろう。しかしながら、現実には、競争の原理が学校を支配し、そればかりか家庭や地域社会までが競争の原理にのみ拠って立っているところに、今日の教育の混乱の元があると考えられる。
なぜ、競争の原理がこれまでに支配的になるのか、それは競争が動機づけの手段として極めて安易であり、「競争だよ」のひと言で、あらゆる教育上の配慮を払拭してしまえるからである。つまり、力を尽すのは学習者の側であり、教師の側は最少限の努力も必要としないで済むからである。
徹底的な競争悪。そう思わせる記述だ。
とくに印象に残るのは前半の部分。驚くほど強い競争批判と、その裏返しとしての協同推しだ。こういった競争に対する批判的な論調は、当時の文献を掘り返すと次々と発掘される。
これらの議論から、いかに教育にとって競争は悪であるか、という主張が読み取れる。このような嫌競争時代を経て、日本社会は「協〇」や「共〇」が多用される時代となる。「共同」「協働」「協同」「協調」「共創」。枚挙にいとまがないとは、まさにこのことだ。
「協調至上主義」の副作用
「競争から協調、そして共創へ」
こうした思想の変化は、直後の学習指導要領にも反映されていく。
もちろん、こうした競争批判の背景には、競争による負の効果の顕在化があったことは間違いない。
当時の文献を読み漁った僕なりに、この時代の論旨を整理してみると、こうなる。
勝つことにばかり意識が集中し、結果がすべてと言わんばかりに敗者をおとしめ、競争の過程で得られる多くの貴重な果実を置き去りにする。結果として格差が広がる。経済社会が成長し、成熟する中において、より重視すべきは協同、協調することであって、競争はそれらの対極に位置する。
たしかに、他者と力を合わせて協同、協調することは素晴らしい。
しかし一方で、この集団的感情が「自らをいましめよ」「目立つ行動を控えよ」という同調圧力に転化されたことも事実だ。
そこで僕は今、「競争の過程で得られる多くの貴重な果実」は、やはり競争でしか得られないこと、そして「競争と協調は対極に位置しない」ことも主張したい。
その根拠を、これからの章で多数の事例とデータを交えながらお届けしていく。
(本稿は、書籍『ライバルはいるか?』の内容を一部抜粋・編集して作成した記事です)
書籍『ライバルはいるか?』では、社会人1200人に行った調査や、世界中の論文や研究からわかった「競争」の認識が変わる様々な事実が掲載されています。本書を読めば、「競争」を力に変えて、「充実した人生」を手に入れられるでしょう!
★仕事の満足度が高まる★
★挑戦する勇気をもらえる★
★人生の停滞感を打破できる★
研究者が1200人を調査して解明。
知れば人生が変わる
「競争」の真実!!
誰かと競うことは本当に「悪」なのか?
1200人を徹底調査してわかった「意外な真実」!!
★ベストセラー『先生、どうか皆の前でほめないで下さい』の著者、渾身作!!
現代では「みんな仲良く」が正義とされ、「競争」は徹底的に排除された。しかし、本当に競争は「悪」でしかないのだろうか?
そこで1200人を対象に調査を行い、世界中の研究や論文を調べたところ、驚くべき真実が見えてきた。
「競争」から逃げて、実力を秘めたままでいるか。
「競争」の力を借りて、実力以上を発揮するか。
賢く選ぶために知っておきたい真実を、この本でお伝えしよう。
第1章 ライバルは敵か、味方か―1200人調査で判明した意外な事実
たくさんいる人たちの中で、どこか気になる存在/ライバルは相反する感情をもたらす/1200人のライバル実態調査の結果から/ライバルはどこに現れる?/「幸福度」に関する驚きの調査結果……など
第2章 現代からライバルが消えた理由―こうして日本社会は競争を葬った
「競争相手」のいない世界/競争は、いつから「悪」になったのか?/「みんな仲良く」という時代の副作用/「無菌状態化」する日本企業の職場環境/競争がなくなったことで失われた光景……など
第3章 ライバルの真のイメージ—それは本当にネガティブな存在なのか
負けることは、恥ずかしいことなのか?/1151人が抱くライバルのイメージ/ライバルがいない人ほど、ライバルを「恐れる」/ライバルがもたらす、大切な「ある感情」……など
第4章 ライバルがいるから頑張れる―意欲と満足度に与えるプラスの影響
入社3年目の「社内マップ」/ライバル観の4つのタイプ/なぜ若手にとって「目標型ライバル」は重要なのか?/統計に表れた「ライバルの有用性」……など
第5章 ライバルこそがあなたを成長させる―競争の果てに得る4つの成長実感
スーパー技術者たちの戦い/なぜ勝者も敗者も、同じ感情を抱くのか/ライバルの有無と成長実感の関係/あの人がいなかったらここまで来れなかった……など
第6章 恋のライバルと戦う—敗北は人生に何をもたらすのか
人が恋に落ちる瞬間/エスカレーターの一段に無限の宇宙を感じる/「恋のライバル」という残酷な存在/4人の恋の結末……など
第7章 ライバルの効能を科学する—世界の研究が明らかにした成功との相関
25秒もタイムが縮まったランナー/膨大な先行研究から導き出した2つの有用性/「比較された従業員」が辿る、正の道と負の道/ライバルのいる人といない人、どちらの年収が上か……など
第8章 ライバル意識のダークサイド―敵対心という心の闇との向き合い方
アメリカで出会ったイケメンの友だちと天才/勝たなければいけないという気持ちが行きつく先/「勝利至上主義」の是非とライバルに対する敵意/「足を引っ張る」ことに喜びを感じる日本人/どんな人が現れても、揺さぶられない自分でありたい……など
第9章 自分という最強のライバル—勝者であり続ける人が戦っているもの
ライバル研究「最大の疑問」/「若くして頂点を極めると成長が止まる」は本当か/藤井聡太がダークサイドと決別した瞬間/364日は「過去の自分」の勝ち/過去の自分に勝つ方法……など
第10章 ライバルと手を組むとき―最高のチームが誕生する瞬間
真に「競争から協調へ」が実るとき/「チームの一員としてふさわしいか」というプレッシャー/この世界は個人戦でできている/自分にしかできない何かを見つけるために……など