「他人と比べるなんて無意味だ」「競争なんて必要ない」。今の時代、そう考える人は多い。会社や学校でも「誰かと競うこと」はほとんどなくなった。たしかに、勝ち負けなんてつけず、皆で協力して全体として高めていけることは素晴らしい。
その一方で、「誰かと競うことには本当に負の側面しかないのだろうか?」と疑問を抱いたのが、金沢大学教授の金間大介さんだ。モチベーション研究を専門とし、現代の若者たちを分析した著書『先生、どうか皆の前でほめないで下さい』がベストセラーになるなど、メディアにも多数出演している。その金間さんの新刊『ライバルはいるか? ー科学的に導き出された「実力以上」を引き出すたった1つの方法』が刊行。社会人1200人に行った調査や、世界中の事例や研究をもとに「競争がもたらす影響」を科学的に解明し、「読むとモチベーションが高まる!」と話題になっている。この記事では、本書より一部を抜粋・編集してお届けする。
「誰かと競うこと」には、本当に負の側面しかないのか?
疑問に思った僕は、社会人1200人を対象し調査をするとともに、世界中の論文や研究を調べた。
すると、人生を豊かにしている人たちの、努力や才能ではない「ある共通点」が見えてきた。
ここでは、「チャレンジ精神」に関する調査結果をお伝えしよう。
ライバルがない人ほど、
ライバルを「ネガティブ」にとらえる
1つ、調査結果を見てもらいたい。
「ライバルの存在は、あなたにどんな影響を与えると思いますか」
という問いに対する回答結果だ。
複数の選択肢の中から最大3つを選択してもらう形式とし、その結果を「ライバルの有無」に関する3つの区分(現在いる、かつていた、一度もいない)ごとに集計した。
さっそく結果を見ていこう。
強調したいポイントは2点だ。
第一に、「現在いる」グループにおけるライバルの影響がすこぶる良いこと。
第二に、「一度もいない」グループの人たちが想定するライバルの影響が、極めてネガティブなこと。
この2点だ。
2つ目のポイントは、後の章で「ライバル意識のダークサイド」としてしっかり扱うので、ここでは1つ目のポイントについて解釈を深めよう。
ライバルがもたらす「好影響」
「新しいことにチャレンジするようになる」
「協力し合って前に進む」
「高い発想力を持ちたいと思う」
「積極的な行動を心がける」
ライバルが「現在いる」グループにおけるライバルの影響を見てみると、じつに前向きで、何事にも代えがたいような好影響ばかりだった。
このようなことを、実際にライバルを持つ人たちは日々、感じながら生活しているとしたら、本当にすごいことだ。
じつは調査をする前から、ある程度の好影響は得られるだろうと予想はしていた。
しかし、ここまで強い結果が得られるとは、予想以上だった。
ライバルが「新しいこと」にチャレンジさせてくれる
とくに、データを見た瞬間、声が出てしまうほど予想外だった項目がある。
「新しいことにチャレンジするようになる」だ。
僕の専門は、イノベーション論だ。
そして、若者の人材育成を研究している身でもある。
今の日本にとって、チャレンジ精神を発揮することがいかに重要かは、痛いほどよくわかっている。
そして、いかに今の日本の若者の多くが、できる限りリスクを取らず、安定した人生を選択しがちか、ということも。
そんな僕の目の前に、「ライバルを持つ人ほど、新しいことにチャレンジする傾向にある」というデータが現れたのだから、心中穏やかではいられない。
「ライバルはチャレンジ精神を促す」
この事実には、一筋の光を感じた。
(本稿は、書籍『ライバルはいるか?』の内容を一部抜粋・編集して作成した記事です)