今は「みんな仲良く」が正義とされる時代だ。会社や学校から「競争」が排除され、業績や成績を人と競い合うことがなくなった。一見すると居心地の良い環境だが、競争を通じた「学び」や「成長」の機会を失ったともいえる。かつて「ホワイト企業」と呼ばれた職場が若者から「ゆるブラック」と揶揄されるように、生ぬるい環境に危機感を抱いている人も少なくない。
そんな状況を打破するヒントが、「ライバル」の存在にある。そう話すのは、金沢大学教授の金間大介さんだ。モチベーション研究を専門とし、現代の若者たちを分析した著書『先生、どうか皆の前でほめないで下さい』が話題になるなど、メディアにも多数出演している。その金間さん待望の新作『ライバルはいるか? ー科学的に導き出された「実力以上」を引き出すたった1つの方法』が刊行。社会人1200人に調査を行い、「ライバル」が人生にもたらす驚くべき価値を解明した。この記事では、本書の「プロローグ」を紹介する。
「競争」を避ける人たち
「誰かと競いたくない」
今の時代、こう考えている人が多いと感じる。
とくに、僕が普段接する大学生たちや、若手社会人たちだ。
とにかくみんな、競争を避けるのだ。
「負ける」のが怖い気持ちはわかる。
でも、じつは「勝ちたくもない」のだ。
それは、自分が勝つことで、相手に嫌な思いをさせたくないから。
だから、人前で褒められることも嫌う。
優劣をつけられ、客観的に「勝ち負け」が決まってしまう状況が、とにかく嫌いなのだ。
そして当然、勝つための努力も嫌い。
勝たなくてはいけないというプレッシャーも嫌い。
だから、誰とも競いたくない。
そもそも、競わされたくない。
どうしても抱いてしまう「違和感」
その気持ちはわかる。
でも正直、僕はこう思う。
本当にそれでいいのか?
たしかに、競うことはつらい。しんどい。
負けると悔しいし、周りからの目も気になる。
これまでの努力が無駄になったように感じて、絶望する。
いっそ、努力なんてしなければよかったとさえ感じる。
だから、誰とも競わない日々を送る。
勝ち負けなんて気にするなよ。
仲良くやろうよ。
みんな一緒でいいじゃん。
そんな競争のない世界へと逃避する。
でも、やっぱり僕は思う。
本当にそれで納得しているか?
いや、みんなが言いたいことはわかる。
余計なお世話だ。
そうやって競わせてくるような人が嫌いだ。
プレッシャーなんてかけてくるなよ。
とくに若い世代からの、そんな反応は容易に予想できる。
「競争意識」はおのずと湧いてきてしまう
でも、誰とも競うことのない日々って、本当にラクなのだろうか。
どれだけ頑張っても、自分の成長を実感できないのでは。
いつまでも、今のままの自分が続く。
本当にそれで納得できるのか。
それに、競争する気持ちはおのずと湧いてしまうものだ。
職場の同期が仕事で結果を出す。
先輩が自分よりも良い仕事をする。
後輩に、仕事の結果で抜かれる。
たとえ競争させられる環境ではなかったとしても、そこには「悔しい」「負けたくない」という競争意識が、おのずと芽生えてくるものだ。
それに、競争することでしか得られないものもあるはずだ。
たしかに、誰かと競うことは怖い。
相応の苦労が伴うし、追加のエネルギーが必要になる。
かくいう僕も、これまで何度も挫折した。
でも、やっぱり今となっては、必要な経験だったと感じている。
調査によって判明した「意外な事実」
だから、断言しよう。
誰かと競うことは、あなたの人生を豊かにする可能性を秘めている。
とはいえ、みんなに「競争」を押し付けようとは思わない。そんなことを言っても、説得力がない。
だから、納得できるようなデータや研究結果を集めた。たくさんの調査をした。
競争が嫌いな人も、気持ちが少し変わるような、意外な事実を解き明かそうとした。
たとえば、こんなことがわかった。
今、誰かと競争をしている人は、していない人と比べて……
26%も、仕事への「意欲」が高い。
33%も、仕事の「満足度」が高い。
36%も、「成長」の実感度が高い。
28%も、「年収」が高い。
そして39%も、「幸福度」が高い。
という事実だ。
ライバルが「実力以上」を引き出してくれる
思い出してみてほしい。
部活、勉強、受験、恋愛、仕事……。
あなたの人生には少なからず、誰かとの「競争」があったのではないか。
その競争は、あなたに何かをもたらさなかっただろうか?
その他者との競争によって、自分の実力以上の力が出たと感じなかっただろうか。
負けたくないと焦るうちに、おのずと行動しなかっただろうか。
勝ちたい一心で自己を磨き、成長を感じなかっただろうか。
そして、たとえ負けたとしても、今ではその経験が大きな糧となっていないだろうか。
現代では「みんな仲良く」が正義とされ、「競争」は徹底的に排除された。
「競争」から逃げて、実力を秘めたままでいるか。
「競争」の力を借りて、実力以上を発揮するか。
あなたが、選ばないといけない。
今のあなたは、どちらの世界にいるだろうか。
確かめたいのなら、次の言葉を自分に問うてほしい。
「ライバルは いるか?」
(本稿は、書籍『ライバルはいるか?』のプロローグを一部抜粋・編集して作成した記事です)