「他人と比べるなんて無意味だ」「競争なんて必要ない」。今の時代、そう考える人は多い。会社や学校でも「誰かと競うこと」はほとんどなくなった。たしかに、勝ち負けなんてつけず、皆で協力して全体として高めていけることは素晴らしい。
その一方で、「誰かと競うことには本当に負の側面しかないのだろうか?」と疑問を抱いたのが、金沢大学教授の金間大介さんだ。モチベーション研究を専門とし、現代の若者たちを分析した著書『先生、どうか皆の前でほめないで下さい』がベストセラーになるなど、メディアにも多数出演している。その金間さんの新刊『ライバルはいるか? ー科学的に導き出された「実力以上」を引き出すたった1つの方法』が刊行。社会人1200人に行った調査や、世界中の事例や研究をもとに科学的に解明した「競争がもたらす意外な影響」が話題に。この記事では、本書より一部を抜粋・編集してお届けする。

職場に「ライバル」がいる人だけが実感している「4つの成長」とは?Photo: Adobe Stock

ライバルがもたらす「4つの成長」

 社会人1200人を対象に行った今回の質問票調査では、下記の質問をしている。

「この1、2年であなたはどのくらい成長していると思うか」

 その際、「成長」を以下の4つの要素に分けて聞いている。

 ①リーダーシップ
 ②チャレンジ精神
 ③協調性
 ④内省力

「とても成長している」を10、「全く成長していない」を1として回答してもらった結果を、ライバルが「現在いる」「かつていた」「一度もいない」の3通りの属性に応じて分けた。

 その結果、すべての要素で「現在いる」が「かつていた」「一度もいない」を上回った。

職場に「ライバル」がいる人だけが実感している「4つの成長」とは?書籍『ライバルはいるか?』より(著者作成)

 ライバルが「現在いる」人は、上記4つの要素において最も成長を実感しているということだ。

 結果はご覧の通りなわけだが、ここで人材育成の研究に携わる身として、少しだけ解説を加えていく。

ライバルがもたらす成長実感:
①リーダーシップと②チャレンジ精神

 紛れもなく、今の日本で求められる資質や能力として上位に君臨するのが、リーダーシップであり、チャレンジ精神だ。
 それぞれ全く別の概念だが、多くの企業において、若手社員に求める資質の筆頭にそれらが挙げられる。
 リーダーシップに至っては、企業が求めていることはもちろんのこと、あらゆるシーンで「日本人に最も必要なもの」と言われるくらいだ。

 なぜライバルがいると、これらの成長を実感できるのか?
 本研究の回答者たちが語った理由はこうだ。

「やっぱり僕のライバルは優秀なので、すでにチームリーダーをやったりしてるんですよね。そういう経験で差をつけられたくないし、自分もやらないわけにはいかないじゃないですか」(20代後半・男性)
「そこまで自分に自信があるわけじゃないですが、というか全然ないのですが、どこかでリスクを取って挑戦しないと、(ライバルたちに)先へ行かれてしまうので」(20代前半・女性)
「自分が提案した企画がプロジェクト化されるのなら、やっぱり自分でやりたいじゃないですか。もし私がやらなくて(ライバルに)取られちゃったら嫌ですし」(30代前半・女性)

 多くの人にとって、リーダー役をやるのは怖いもの。
 今の若者に至っては、「リーダーは最もやりたくない役職」という時代だ。
 チャレンジもリーダーシップも大事なのはわかっているけど、失敗することを考えると躊躇してしまう。そういう気持ちは、誰にでもある。

 そんな臆病な気持ちを後押しする、ある意味、劇薬のような効果を持つのがライバルの存在だ。

 怖い。でも、つべこべ言っている場合じゃない。
 今やらないと、きっと置いていかれる。選択の余地なし。
 始めさえすれば、きっとなんとかなる。

 ライバルは、そんな風に思わせてくれる。
 その結果として、強い成長実感をもたらしてくれる。