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2030年のビジネスモデル

3000万人健診弱者の解消に挑み、
聖域に切り込む変革者

齊藤義明 [ビジネスモデル研究者、経営コンサルタント]
【第6回】 2013年5月14日
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 米国や豪州では看護師が簡単な診断や病院紹介ができるが、日本では医師を置いていないと診断をしてはいけない。わかっていても「病気の疑いがある」とは書けないし、病院を紹介することもできない。川添さんは日本でも今後米国や豪州のようなサービスが可能になるよう法改正にもリーダーシップを発揮していくのが事業者としての責任だと考えている。

 超高齢社会を迎え日本の医療を支える公的財源は今後どんどん枯渇していく。社会保険料でいったいどこまでカバーすべきか、真剣な議論になるときがやがて来る。税金や社会保険料に依存して国民サービスを充実させようというやりかたは、もはやこの国の未来の人口構成から考えて現実的ではない。

 一般に、医療福祉や環境などの分野の「良い事業」や「良い試み」は、良いことをやっているのだから国や自治体からの助成があって当たり前という発想が強い。それは結果的に赤字を正当化し、国民の税金や社会保険財源を食いつぶしてしまう。

 本当は、医療福祉や環境などの社会貢献分野であっても、自らの足で立つ事業モデルこそがこれからの日本にとっては優れた解なのだ。ケアプロのワンコイン健診事業に国の補助は一切ない。これだけ安価な健診サービスを全て民間事業で回す。これは国民の税金を食いつぶす事業ではなく、途上国など様々な国へも輸出可能で、むしろ国を発展させる可能性を持った事業だ。

既存業界の執拗な抵抗や嫌がらせを突破する

 「この事業には、医療、ビジネス、政治という複数の側面があります」と川添さんは言う。法的な制約はもちろんのこと、関係者の利害が複雑に入り組んでおり、既存の業界関係者からの抵抗や嫌がらせなども少なくない。

 ケアプロのワンコイン健診サービスは、既存のクリニックからは「価格破壊」とみなされた。「患者が減るから嫌だ」という医療クリニックに対して、川添さんは一軒一軒をドアノックで回った。「ワンコイン健診のユーザーはこれまで健診に行っていない人たちが中心だから、既存の健診サービスとは棲み分けられています。しかももし病気が見つかればむしろクリニックの患者さんは増える」ということを、数値データを示しながら説得して回った。また川添さんは医学部の教授と一緒に学会で発表するなど、学会への理解醸成にも努力を重ねた。

 潜在的なユーザーからもはじめは怪しまれた。「検査の精度は大丈夫なのか?」「何か売り込まれるのではないか?」、こうした猜疑心は当然生じる。川添さんは、ワンコイン健診に対する社会的認知を「メタボビジネスです」といった軽いノリではなく、「社会問題を解決するための手段である」といった正当な文脈でマスコミに訴えていった。

 自治体の保健所からは、「事件・事故が起こったときに管轄責任を問われるから」と嫌がられた。「医師を雇って普通の診療所にしてほしい」と言われた。「医師を雇わないと警察に告発する」とまで言われた。川添さんは驚いた。そもそも法的に問題などないのだ。行政の悪しき「ことなかれ主義」に過ぎない。

 ケアプロが店舗出店できないよう仲介の不動産会社にも圧力がかけられた。検査のための針やチップの卸会社にも、ケアプロへは商品を供給しないように圧力がかけられた。川添さんは言う。「驚いたし、嫌だったが、その時々にこの事業は本当に社会が必要としているものかどうかに立ち返り自問しました。本当に必要なものだと確信がもてるなら、壁は超えられます」

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齊藤義明
[ビジネスモデル研究者、経営コンサルタント]

ビジネスモデル研究者、経営コンサルティング会社勤務。政策・経営コンサルティングの現場でこれまで100本以上のプロジェクトに関わる。専門は、ビジョン、イノベーション、モチベーション、人材開発など。

2030年のビジネスモデル

未来のパターンを作り出す企業は、はじめは取るに足らないちっぽけな存在だ。それゆえに、産業の複雑な変化の過程で、その企業はときに死んでしまうかもしれない。しかし個別企業は死んでも、実はパターンは生き続け、10年後、20年後、新しい現象として世の中に広がる。2030年の日本につながる価値創造のパターンとは何か。現在さまざまな領域でその萌芽に取り組む最前線の挑戦者たちとのダイアローグ(対話)。

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