

そのあと川添さんはハッとすることを言った。「反発があるということは、それだけ脅威を持っているということです」「これだけ抵抗が強いといい面もあります。この業態を簡単に認めると新規参入が相次ぎますが、保健所が競合をつぶしてくれます。大企業もコンプライアンスの問題を気にして参入してきません」
強い人だと思った。新規市場の生態系を深く理解したうえで、抵抗勢力すら自らの事業成長の要素に転換する。このくらいの覚悟と態度がないと保守的な医療サービス業界で革新などできないのかもしれない。
ケアプロのワンコイン健診の店舗は現在、中野と横浜にある。中野店は2008年11月開業、4年が経過し既に黒字化も達成した。しかし横浜店では保健所の指導によってまだ血液検査ができず、検査項目が制限されてしまうことから赤字が続いている。
川添さんは事業の推進方法を変えた。店舗がダメならイベントを通じてこのサービスを推進し、業界に風穴をあけていく。スーパー、ドラッグストア、スポーツクラブ、家電量販店、パチンコ店などと次々と提携し、ワンコイン健診の出張サービス事業を開始。
スーパーでは検査結果を見て「今日の食材」を提案するイベントを実施して好評を得た。家電量販店では日本人のみならず中国人客もターゲットにし、将来的には海外へのフランチャイズ展開も視野に入れている。現在、同事業の90%がイベントによって推進されている。
ケアプロの成功を見て、最近、薬局が独自に健診サービスを始めた。競合の出現だ。しかし川添さんはこれを競合とはとらえずに、逆に仲間と考え、マニュアルやツールを提供した。「他社を排除するのではなく、参入企業同士で業界団体を組織してサービスの質を維持するしくみを構築する必要がある」と考えたためだ。
ところで、ワンコイン健診サービスをはじめてみると意外なことがわかった。買い物ついでにワンコイン健診サービスを利用する50代や60代の主婦が多い。「年1、2回、病院での健康診断ももちろん受けるけど、それだけじゃ足りない」「最近試している黒ウーロン茶やフィットネスは本当に自分の健康にとって効果があるのかどうか調べてみたい」といったニーズを持っていたのだ。
定期的に健康チェックし、携帯サイトでデータを管理し、自ら食事・運動・受診などの行動を起こす、そんな新しい流れが小さいながら生じ始めている。また、毎月ワンコイン健診にリピートし、看護師と話をするのが楽しみになっている人もいる。褒めてもらったり、叱られたりするのがいいようだ。こういう気軽さが、従来の健診にはなかった。「学校の保健室みたいな感覚」と川添さんは言う。