三田紀房の投資マンガ『インベスターZ』を題材に、経済コラムニストで元日経新聞編集委員の高井宏章が経済の仕組みをイチから解説する連載コラム「インベスターZで学ぶ経済教室」。第157回は「専業主婦の優遇を許すな!」という世の糾弾ムードに物申す。
我が家は専業主婦世帯、飲み会で絡まれてカチン!
桂蔭学園女子投資部のメンバー・久保田さくらの母親は、オーナーに任された喫茶店経営と投資の両方を軌道に乗せている。ある日、常連客から、パートで働こうとしたら夫に「配偶者控除が減るからやめてくれ」と言われたと家計の悩みを打ち明けられる。
国民民主党の公約が火付け役となって注目が一気に高まった「壁」。インフレや賃金上昇、人手不足などを考慮した水準の調整にとどまらず、専業主婦優遇型の制度設計の見直しが課題になっている。
給与の配偶者控除から外れる「103万円の壁」と夫の社会保険の扶養から外れる「130万円の壁」は、サラリーマンや公務員の妻が国民年金の保険料を免除される第3号被保険者の廃止論と並んで、「脱・昭和モデル」の焦点だ。
私事で恐縮だが、我が家は四半世紀ほど専業主婦世帯でやってきた。私が稼ぎ手で、家事と子育ては奥様が主役。まさに昭和な分業体制で、第3号被保険者が廃止になれば負担は増える。税と社会保障は公平性が重要だから、それはやむを得ないと考えている。
ただ、第3号被保険者問題を巡って「専業主婦の優遇を許すな」と糾弾するようなムードが一部にあることには違和感を持っている。
ずいぶん昔のことだが、酒席で我が家は専業主婦世帯だと話したら、「あなたの奥さんは私に寄生しているんだけど、自覚ある?」と食ってかかられたことがあった。売り言葉に買い言葉で私も相当キツいセリフを返したのだが、炎上必至なので割愛する。
「主婦叩き」が招く分断
そこまで酷い物言いは滅多にないが、共働き世帯がマジョリティーとなり、専業主婦世帯が妙に肩身の狭い思いをしているのは事実だ。会食などの際にこの話題になると、微妙な空気が流れる。
「すごいですね」と妙に感心されたり、「奥さんは『外』に出さない主義ですか」といじり気味にコメントされたりすることもある。PTAや保護者会などで「専業主婦です」と口に出しにくいのも、なんとなく世間体が悪いという空気の影響だろう。
我が家が専業主婦世帯なのは、「妻子を養うのが男の甲斐性」とか「家庭は女が守るべき」といった価値観とは全く関係ない。
たまたま、私たち夫婦の場合、「外」と「内」、あるいは「お金が絡むこと」と「貨幣経済の外」といった形で、それぞれの向き不向きが比較的はっきりと分かれていて、チームとして役割分担しただけのことだ。この辺りの事情はnoteの「専業主婦で何が悪いか!」という文章に詳しく書いた。
「専業主婦の優遇を許すな」という一部の風潮は「専業主婦は甘やかされている」という認識に基づくのだろう。だが、当たり前だが、家事労働や育児は甘くもなければ楽でもない。不向きな私が「やれ」と言われたら、あっという間に音を上げるだろう。
家事・育児に限らず、教育や介護といった「誰かをケアする仕事」は市場経済の中では軽視されがちだ。そうした市場至上主義の価値観が専業主婦の「特権」への反発につながっているのだろうと推察している。
繰り返しになるが、私は制度の公平性は重要だと考えているし、時代にあわせてバランスを修正するのは当然のプロセスだ。だが、ただの選択肢のひとつにすぎない専業主婦世帯に必要以上にマイナスのイメージを広げて分断を煽るのはいただけない。それこそ社会の中に無用な「壁」を作ることになるのではないか。