コマツは1月31日、今吉琢也専務が4月に新社長に昇格する人事を発表した。財務部長や経営管理部長など管理部門の要職を歴任してきた経歴の持ち主だ。生産部門を歩んだ幹部がトップに就くことが多いコマツには珍しい人事と言える。関係者への取材から、異例の財務出身者がトップに就く理由を明らかにする。(ダイヤモンド編集部 井口慎太郎)
エリート然としたイメージと裏腹に
2つの大きな逆境を乗り越えてきた経営者
コマツはインフラが完成された日本、米国、欧州を「伝統市場」、中国や東南アジアなどその他地域を「戦略市場」と位置付けている。両方の現場を経験した小川啓之社長は、2つの市場を見る視点を大切にしている。以前から「後任の社長には両方の地域を経験した人を」と公言していた。
1990年代後半から2000年代前半に米国に赴任し、2010年代以降に中国で2回勤務した今吉氏は、この条件に当てはまる。だが、その経歴を見るとコマツのトップとしては珍しいキャリアを歩んでいるのだ。
今吉氏は財務と経営管理の要職を歴任した管理部門の専門家だ。東大法学部を卒業後1987年に入社し、初任地の粟津工場(石川県小松市)では経理を担当。その後、米国と中国での勤務を経験し、これまでに計12年を海外で過ごした。2016年に財務部長、18年には執行役員経営管理部長、21年には中国総代表とキャリアを重ねた。
文系出身でバックオフィスの中枢を歩んだ幹部がコマツのトップに就くことは近年では珍しい。現在の小川啓之社長も、その前の大橋徹二会長も、3代前の野路國夫氏も、4代前の坂根正弘氏も、皆理系出身で技術部門を歩んだ。さらに大半が生産本部長を経てトップに至っている。ものづくりや技術を重視する姿勢が現れていたとも言える。
文系出身で、管理部門を歩んだ社長は5代前の安崎暁氏まで遡らなければいけない。なぜ、ここに来て財務畑の社長が誕生するに至ったのか。次ページでは、異例の人事の背景を明らかにする。