営業利益率15.7%に自己資本比率56.7%――。コマツの直近の業績は製造業界全体を見渡しても盤石な数字だ。100年を超える歴史で、赤字に陥ったのは2001年度だけ。同社の危なげない姿はまさに「優等生」といえる。安定の秘訣はどこにあるのか。特集『建機 陥落危機 メーカー&商社“背水の陣”』の#3で、徹底解明する。(ダイヤモンド編集部 井口慎太郎)
売上高の3~4割は買収した会社が稼ぐ!
なぜコマツはM&A巧者なのか?
コマツの強さは同じ製造業の「横綱」クラスにも全く引けを取らない。2023年度の自己資本利益率(ROE)14.1%と自己資本比率56.7%は、トヨタ自動車(同15.8%、38.0%)、三菱重工業(同11.1%、35.9%)と比肩しているといって過言ではない。
しかも、コマツの業績は近年、右肩上がりだ。売上高は14年度に2兆円を下回っていたが、23年度は3兆8000億円を超えた。営業利益率は過去10年、10%以上をおおむねキープしている。23年度は売上高、営業利益共に過去最高を達成し、今年度もそのペースを維持している。
コマツの歴史を俯瞰して、一貫して優れているといえるのが「先見性」だ。国内需要が旺盛な高度経済成長期の入り口だった1955年には海外進出を始めている。日本の製造業を象徴する自動車業界に比しても早い判断だ。
今では海外売上高比率は9割に達し、社員の3分の2は外国籍だ。「グローバル企業」という言葉が生まれる前からその方向にかじを切ってきたのだ。
デジタル化と脱炭素でも業界をリードしてきた。01年には稼働状況を遠隔で監視するKomtrax(コムトラックス)を標準装備した建機を売り出し、08年には、旋回装置を電気駆動化するハイブリッド油圧ショベルを世界で初めて実用化した。
国内の総合建機メーカーで独立系の企業は実は少ない。日立建機は今でこそ日立製作所の連結子会社ではなくなったが、それも22年と最近のことだ。コベルコ建機は神戸製鋼所、住友建機は住友重機械工業の傘下にある。
自社だけで判断できるスピード感は戦略を描く上で大きな強みとなる。経営判断に親会社のゴーサインが必要な、ある競合メーカーの幹部は「もたもたしているといつもコマツに先を越される」と嘆く。
コマツの強さは先見性だけではない。先見性が戦略をつかさどる「頭脳」だとすれば、戦術を担う「両腕」に当たる二つの武器があるのだ。次ページで詳述する。