この変化のプロセスを丁寧に見極めていくことが、「うつ」の治療において大切なポイントの1つです。

 たとえば、出社できなくなった「うつ」のケースにおいて、その患者さんがその会社自体に問題を感じて拒否反応を起こした場合もあれば、特定の人間関係にダメージを受けての場合もあります。また、その職種自体にどうしても馴染めないことが原因のこともあれば、まったく仕事自体に問題はなく、その人が物事に取り組む際のストイックな性格傾向が原因になっていることもあります。これは、なかなか治療初期の段階では見極めの難しいところであって、経過を観察ながら丁寧な面接を行なっていかなければわからないことも多いのです。

 よく、「うつ」状態の時に人生上の大きな決断をしないほうがいいと言われますが、これは、拒否反応がまだ絞り込まれていない時点で自身の方向性を決断すると、問題でない環境を問題だと捉えてしまう危険があり得るためなのです。

「したくない」ことと
「したい」ことは表裏一体

 「~したくない」の対象が絞り込まれてきますと、そこに、その人が譲れないものが、ちょうどネガのように反転した形で見えてきます。

 人にはそれぞれ、決して妥協できない「中心的なこだわり」が木の幹のようにあり、一方には多少の妥協をいとわない「周辺的なこだわり」を枝葉のように併せ持っているものです。

 絞り込まれた「したくない」こととは、その人の「中心的なこだわり」に反するものだと考えられます。これを無理に行ない続けると、その人が自分自身を裏切り続けることになり、必ずや再び何がしかの「心」(=「身体」)の反発を招いてしまうことになります。ですから、そのような方向で「社会復帰」を目指すと、往々にして再発しやすくなってしまいます。

 大切なのは、絞り込まれた「したくない」を手掛かりにして、小さな声でつぶやき始めた「したい」に耳を傾ける作業です。

 「頭」による長い弾圧の後に「心」(=「身体」)が語りはじめる声は、小さく微かです。それは「なんとなく」とか「ふっと気まぐれに」といった感じで現われることが多いので、揺るぎない理由や功利性を求める「頭」が大声で割り込んでしまうと簡単にかき消されてしまいます。ここが難しいところで、良質なサポートが大切になってきます。その人独自の「中心的なこだわり」から発した「~したくない」を十分に尊重しつつも、その奥に聞こえる「~したい」に耳を澄ますこと。これが、その人の真の「社会復帰」の方向性を見つけるうえで欠かせない重要なことなのです。

 次回は、療養中の人に対してなされることの多い「身体を動かすべきだ」「少しでも外に出た方がよい」といったアドバイスの問題点について考えます。