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三田紀房の投資マンガ『インベスターZ』を題材に、経済コラムニストで元日経新聞編集委員の高井宏章が経済の仕組みをイチから解説する連載コラム「インベスターZで学ぶ経済教室」。第166回は、過熱する一方の「受験の課金ゲーム」や、国会で議論が進む「高校無償化」について実体験をもとに直言する。
兄の弁当は2人で「食パン一斤」
主人公・財前孝史との勝負の前に、藤田慎司は投資部廃部後のビジョンを語る。授業料無償の道塾への入学者は塾通いできる裕福な家庭に偏っており、創業者の理想に立ち返るには新しく別の学校を開設するしかないと力説する。
貧しい子どもに教育の機会を、という理想に私は強く共感する。私の「義務教育に限らず、全ての教育は無償であるべきだ」という持論は自分の子ども時代に根ざしている。
亡父の事業の失敗で多額の借金を抱え、子ども時代の我が家はそれなりに貧乏だった。小学生の頃は文具代や給食代にも事欠いた。年の離れた兄たちは中学に上がっていたが、弁当は2人で食パン一斤。
気の毒に思った友人がジャムをくれたと聞いて大笑いした。しょうもない貧乏話は「高井宏章のおカネの教室チャンネル」の田内学さんとの対談動画「倒産・極貧・食パン一斤」で披露しているのでご笑覧いただきたい。
父は中卒、母と2人の兄は高卒で社会に出ており、私も工業高校に進んで就職するつもりだったのだが、中3の時の友人との何気ない会話をきっかけに大学進学を考えるようになった。その時、頭を悩ませたのは学費だった。
当時、国公立大学の学費は年40万円ほどだった。「街金」に資金繰りを頼るような家計にそんな余裕があるはずもなかった。進学を選ぶと機会費用も大きい。高校を出てすぐ働けば、家に生活費を入れられる。
最終的には大学進学を選び、名古屋大学に現役合格したのだが、小中高と塾や予備校の類いには一度も通わない「無課金」のままだった。入学までは最低限のコストで乗り切ったけれど、案の定、入学後は授業料と生活費の工面に苦労した。
事故の慰謝料で大学進学
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思わぬ「財源」となってくれたのは、もらい事故の慰謝料。飲酒&居眠り運転のワンボックスカーがノーブレーキで私が乗車していた車に突っ込んできたのだ。
重度のむち打ち症と引き換えに、4年分の学費を払ってもお釣りがくるほどの慰謝料が入った。通帳ごと親に預けておいたら、4年生になる頃には会社の運転資金に回されて綺麗さっぱり無くなってしまった。
事細かに昔話を披露したのは、私はギリギリで運がよかっただけだ、と言いたいからだ。家計がもう少し苦しかったら、大学の学費がもう少し高かったら、塾や予備校の助けが必要だったら、あるいは私が単に長男だったら、おそらく大学進学は諦めていただろう。
なりたかった新聞記者にもなれず、『おカネの教室』という本を書くこともなく、今、あなたがこのコラムを読むこともなかったはずだ。
地方出身者の目には、首都圏の受験の課金ゲームの過熱ぶりは異常に映る。幸い、うちの三姉妹は我が家の財政状況を忖度してそろって公立ルートを選んでくれているが、教育費のリスクを考えれば、都内で3人以上の子を持つのはギャンブルに近い。
実感として、中等・高等教育を無償化に近い形にしない限り、どんな対策を打ち出しても少子化にブレーキをかけることすらできないだろう。
教育の課金ゲーム化は機会の平等と格差の助長の両面で害が大きい。システム全体の改革とセットで教育無償化の道を探ることが日本再興の一丁目一番地ではないだろうか。
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