
三田紀房の受験マンガ『ドラゴン桜2』を題材に、現役東大生(文科二類)の土田淳真が教育と受験の今を読み解く連載「ドラゴン桜2で学ぶホンネの教育論」。第29回は「東大入試のリスニング」について考える。
音質の悪さで有名な東大リスニング
東京大学現役合格を目指す早瀬菜緒と天野晃一郎は、英語のリスニングに重点をおいて学習を始める。特別講師の鍋明美は、リスニングの練習方法として「英語の歌のモノマネ」と「問題文をボソボソ繰り返すこと」に取り組むよう促す。
2025年の大学入学共通テストでは志願者の約91%が受験した英語リスニングだが、二次試験で使用する大学は意外と少ない。
東京大学ではリスニング試験があるものの、京都大学、東京科学大学、慶應義塾大学などでは実施されていない。早稲田大学国際教養学部は2018年からリスニングを廃止し、英検やTOEFLなど民間の英語試験を利用する方式に変更した。
東京大学の英語リスニングは120分の試験時間のうち30分+α(下読みの時間など)を占める重要な分野だ。基本的には3つの大問で構成され、それぞれに5つずつ設問がつく。2024年は、スエズ運河での座礁事故やパプア・ニューギニアの言語多様性について出題されるなど、毎年多様な分野から問題が作られる。
東京大学のリスニングは「音質が悪い」ことでも有名で、わざと音質を悪くした模試や練習アプリを作成する予備校もあるほどだ。「普段のリスニングでも、濡れたタオルをスピーカーに被せれば音質の悪さを再現できる」という友達の声も面白い。
また本番では、アメリカ英語だけではなくイギリス英語やインド英語が流れることもある。私も受験生の時は単にリスニングの問題を解くだけではなく、BBCのニュースを見るなどして世界各地の英語の発音を聞き取れるようにした。
メモをとって「大筋」をつかむ

このほかにも東大リスニングはテクニカルな話題が事欠かない。私は東京大学のリスニングでは常に「事前にメモをとる」ようにしていた。
通常リスニングを解く際は、選択肢をあらかじめ読んでおく「下読み」という作業をする。とはいえ、5つの選択肢×5つの設問×3つの大問=75個の選択肢を短時間で覚えるのは至難の技だ。
そこで私は、各選択肢の主張の論理関係を簡単に事前にメモし、あとで選択肢をもう一度精読しなくてもいいようにしていた。具体的には、論点を○で囲み矢印で述語に繋げたり、各選択肢の文頭で共通している言い回しをまとめて線で分けたりした。
こうすることで話の大筋がつかめるし、選択肢同士の主張の違いがより明確になる。単に英語力が向上したからなのかもしれないが、私はこの方法を取り入れたあとリスニングの点数が1.5倍ほどになった。
もちろん受験直前に解き方を変更するのはよくないので、話半分程度に参考にしていただければ幸いである。なお『ドラゴン桜2』は、この先の第31話で私と異なるアドバイスをしている。
考えてみると、リスニング試験は他の科目と比べても特徴的だ。英語でもリーディングやライティング、さらに数学や国語などは時間配分を自由に設定することができる。
それに対して、リスニングは自分が分かっていようといまいと、強制的に次の問題が流れてくる。現実世界の会話のように、相手に聞き返すこともできない。
常に相手のペースで進んでいく試験だからこそ、リスニングは綿密な準備が欠かせない科目なのである。

