三田紀房の受験マンガ『ドラゴン桜2』を題材に、現役東大生(文科二類)の土田淳真が教育と受験の今を読み解く新連載「ドラゴン桜2で学ぶホンネの教育論」。第1回は、東大受験をめぐる「皮肉な現実」を解説する。
なんで私が東大(を扱う作品)に?
「この桜とともに龍山も大きく育ってくれるはずだったのに…」
偏差値30の龍山高校を東大合格者が続出する進学校に躍進させた弁護士、桜木建二。しかし彼が学校を去った後、東大合格者はついに0人になってしまった。自身が植えた桜の奥にたたずむ変わり果てた龍山の姿を見て、彼はそう嘆く。
龍山高校の再・再建を誓う桜木はさっそく職員室へ乗り込む。しかし、そこに現れたのは龍山凋落の元凶「女帝」龍野久美子・理事長代行。「この学園は私のものよ」と豪語する彼女を前に、桜木は龍山高校を復活させることができるのだろうか…!
2021年にドラマ化もされた三田紀房の大人気漫画『ドラゴン桜2』。筆者はこの4月東京大学に入学したが、このコラムを書いてみないかとのお声をいただいた時は、「なんで私が東大(を扱う作品)に」とつぶやきそうになった。
思えば、『ドラゴン桜』は筆者の母校である桐朋中学校・高等学校(東京都国立市)の図書館に並ぶ数少ない一般漫画だった。中1の時、同級生数人で取り合いになった思い出こそあれ、最終巻を読んだ記憶はない。フィクションの世界とはいえ、いつか対峙することになる大学受験を直視したくないというのも本音だったのかもしれない。
しかし、『ドラゴン桜2』が描き出す龍山高校の日常は、決して受験勉強のテクニックだけにとどまらない。
100%の合格テクニックはない
本作は一見すると受験スポ根漫画のようだが、作中には桜木が受験制度や教育制度を通して日本社会の構造や矛盾についての自説を訴える場面が多く登場する。
確かに昨今のニュースを見ても、国公立大学の女子枠設置、総合型選抜の増加といった受験に関する話から、東大の学費値上げ問題、公立学校の教員数不足、教育格差問題に至るまで受験・教育に関する話題は尽きない。
これらの社会問題は、決して数学の問題集を5周し、英単語帳を丸暗記したからといって解ける類の問題ではない。しかし桜木の論に従えば、皮肉にもこれらの問題を制度的に解決しうる立場にいるのは数学の問題集を5周し、英単語帳を丸暗記してきた猛者たちなのだ。
だからこそ桜木は「ランクを落としてでも確実に合格圏内の大学を受験させるべきだった」と振り返る龍山高校の教師達へ、「そんなふうだから東大合格者がゼロなんだ!」「生徒に強いこだわりを持たせるのがあんたらの役割だ!」と喝をいれる。
大学入学の難易度をはかる指標としての偏差値は、たしかに分かりやすい目標であり学校間の比較をする時に役に立つ。しかし、合格に向けた真の原動力になるのは、その機械的な数値を裏で支えている、ともすると言語化すらできない「こだわり」なのではないだろうか。
元来受験というものは十人十色であり、万人を100%合格させるテクニックや暗記法は存在しない。たとえば筆者が来年もう1回東大受験をしたところで、再び合格するとはもちろん言い切れない。本コラムでは、こうした受験の話にとどまらず、教育やそこから派生する社会現象まで取り上げていくつもりだ。
筆者はコラムの執筆に挑戦するのは今回が初めてである。自動車免許もまだ取っていないし、先月初めて選挙に行ったばかりだ。だが、八分咲きの桜を満開だと見栄を張ることがあってはいけない。時に周りの学生のリアルな意見を織り交ぜながら、常に全力で桜木や生徒たちの挑戦を追っていく。
2年前、今年受験生となる1学年下の後輩の入学式で、在校生代表としてかけた言葉が自分に返ってくる。「来年も、再来年も同じように桜は咲き続けます。ですが、皆さんが思い描くサクラは、決して同じものではないでしょう」。桜木の、生徒たちのサクラは果たして無事に咲くのだろうか。
読者の皆さんも、拙稿とともに今一度「教育」「受験」を見つめ直していただければ幸いである。