相続は誰にでも起こりうること。でも、いざ身内が亡くなると、なにから手をつけていいかわからず、慌ててしまいます。さらに、相続をきっかけに、仲が良かったはずの肉親と争いに発展してしまうことも……。そんなことにならにならないように、『相続のめんどくさいが全部なくなる本』(ダイヤモンド社)の著者で相続の相談実績4000件超の税理士が、身近な人が亡くなった後に訪れる相続のあらゆるゴチャゴチャの解決法を、手取り足取りわかりやすく解説します。
本書は、著者(相続専門税理士)、ライター(相続税担当の元国税専門官)、編集者(相続のド素人)の3者による対話形式なので、スラスラ読めて、どんどん分かる! 【親は】子に迷惑をかけたくなければ読んでみてください。【子どもは】親が元気なうちに読んでみてください。本書で紹介する5つのポイントを押さえておけば、相続は10割解決します。
※本稿は、『相続のめんどくさいが全部なくなる本』(ダイヤモンド社)より一部を抜粋・編集したものです。

「自筆証書遺言書保管制度」のメリットは?

自筆証書遺言書保管制度のいいところ
前田 通常、自筆証書遺言は相続開始後、開封時に家庭裁判所で裁判官が立ち会う「検認」の手続きが必要なのですが、保管制度を使うと、その検認を省略できます。
さらに、相続開始後に、相続人は法務局で遺言書を閲覧したり、遺言書の情報の証明書をもらったりすることができるので、わざわざ原本を見に行かなくてもよくなります。
相続人への通知の仕組み
国税 先ほど保管制度を使うと、相続人に通知されるというお話がありましたが、その点をもっと詳しく教えてください。
前田 自筆証書遺言書保管制度を利用した被相続人が亡くなったあと、相続人の誰か1人が遺言書の閲覧をしたら、ほかの相続人全員に対して通知が届くルールになっています。なので、遺言書の内容を見た相続人が、「これは自分にとって不利な遺言書だから、ほかの相続人には隠しておこう」と思っても、それは不可能です。
無知 遺言書が握りつぶされるリスクがなくなるのは、いいですね。
遺言者が指定した相手への通知
前田 また、遺言者があらかじめ希望すれば、自分が亡くなったあと、指定した人に遺言書が保管されていることを通知してもらえます。
法務局が戸籍担当部局と連携して遺言者の死亡を確認した場合、指定された人に通知をします。遺言者1人につき1人しか指定できませんが、役立つ場面はあると思います。通知を受けた人が閲覧すると、ほかの相続人全員に通知がいくことになりますので。
国税 ということは、生前に遺言書の存在を誰かに知らせておかなくても、手続きをしておけば死後にきちんと通知してもらえるわけですね。
遺言書保管の手続き
国税 手続きはどうすればいいのですか?
前田 遺言者がする手続きと、相続人がする手続きがありますが、ここでは前者を説明しておきましょう。たとえば、親から子に向けて遺言書をのこす場合、親がやるべき手続きを説明しますね。
親が最初にやらないといけないのは、自筆証書遺言を書くこと。こればかりは法務局にお任せできないので、自分でやるか弁護士などに相談しなくてはいけません。
遺言書が完成したら、保管の申請をする法務局を決めます。これは、「遺言者の住所地」「遺言者の本籍地」「遺言者の所有する不動産の所在地」のいずれかを管轄する法務局から選べます。
あとは、保管申請書に必要事項を記入し、添付書類と手数料を添えて保管申請をします。このときは予約が必要なので、いきなり窓口に出向かないようにしてください。
ひととおり手続きが終わると、保管した遺言書を特定するための情報が書かれた「保管証」というものをもらえます。この保管証は再発行できないので、紛失しないようにしなければなりません。保管証をもらうところまでいけば、手続きは完了です。
遺言書を書き換えたい場合
国税 ちなみに、一度預けた遺言書を書き換えたくなったら、どうすればいいのですか?
前田 その場合、遺言書保管所に指定した法務局で、保管申請の撤回をすると、預けておいた古い遺言書の返還をしてもらえます。そのうえで、あらためて自筆証書遺言を作って、保管申請をすれば新しいものが保管されます。
気をつけたいのは、保管申請の撤回をしたからといって、その遺言書の効力がなくなるわけではないということです。
保管申請の撤回と遺言書の効力
無知 どういうことですか?
前田 保管申請の撤回は、あくまでも保管制度の利用を止める手続きです。遺言書そのものの効力を消したいのであれば、新しい遺言書を作るか、撤回して回収した遺言書を破棄しなくてはいけません。
「自筆証書遺言書保管制度」のメリットは? … 遺言書の存在を知らなくても通知してもらえる
※本稿は、『相続のめんどくさいが全部なくなる本』(ダイヤモンド社)より一部を抜粋・編集したものです。