相続は誰にでも起こりうること。でも、いざ身内が亡くなると、なにから手をつけていいかわからず、慌ててしまいます。さらに、相続をきっかけに、仲が良かったはずの肉親と争いに発展してしまうことも……。そんなことにならにならないように、『相続のめんどくさいが全部なくなる本』(ダイヤモンド社)の著者で相続の相談実績4000件超の税理士が、身近な人が亡くなった後に訪れる相続のあらゆるゴチャゴチャの解決法を、手取り足取りわかりやすく解説します。
本書は、著者(相続専門税理士)、ライター(相続税担当の元国税専門官)、編集者(相続のド素人)の3者による対話形式なので、スラスラ読めて、どんどん分かる! 【親は】子に迷惑をかけたくなければ読んでみてください。【子どもは】親が元気なうちに読んでみてください。本書で紹介する5つのポイントを押さえておけば、相続は10割解決します。
※本稿は、『相続のめんどくさいが全部なくなる本』(ダイヤモンド社)より一部を抜粋・編集したものです。

認知症で財産が凍結…
そのリスクを防ぐ家族信託®の仕組みとは?
「認知症への備えとして、家族信託®が役立つ」という話を耳にしたことはないでしょうか?(家族信託は一般社団法人家族信託普及協会の登録商標です)。
そもそも「信託」とは、財産を所有する「委託者」が、自分の財産を「受託者」に託し、あらかじめ決めた目的に沿うよう、管理や運用をしてもらい、「受益者」が利益を得るという仕組みのことです。
これを利用すると、財産をもつ人が認知症になったとしても、その財産を家族などが自由に動かせるようになります。
財産管理の新しいかたち
裁判所なしで安心を叶える
一般的な信託は信託銀行が受託者となり報酬を受けて行われますが、家族などが無報酬で行う信託は「民事信託」と呼ばれ、その民事信託が「家族信託®」とも呼ばれているのです。
成年後見制度では、財産の管理を任された成年後見人でも原則として財産の売却や運用はできません。でも、たとえば父親が委託者、子どもが受託者になる民事信託を組んでおけば、財産の名義が父親の生前から子どもに移り、子どもは自由に売却や運用ができるようになります。
また、民事信託は、成年後見制度のように家庭裁判所の判断をあおぐ必要がなく、当事者同士で契約を行えるので、その点でも使い勝手がいいです。
実家の売却が必要なら?
認知症時代に民事信託を検討すべきワケ
民事信託の利用を検討したいのは、実家の売却が必要になると見込まれるケースです。
実家を所有する親が認知症になってしまうと、たとえ老人ホームに入るなどして実家が不要になっても親が亡くなるまで売却することができません。でも、実家を民事信託して受託者を子どもにしておけば、子どもが売却の手続きを進められるようになります。
親がアパート経営をしていて、認知症になったあとも管理会社などとの契約が必要になるような場合も、民事信託が役に立つでしょう。

民事信託のメリットと負担…
受託者にのしかかる現実とは?
ただし、民事信託は安易に利用するべきではありません。なぜなら、受託者を任された人にとっては、財産を管理することが負担になってしまうからです。
一般的には親の近くに住んでいる家族が受託者になり、親が死ぬまで財産を管理しますが、任されたほうは「どうして自分ばかりがやらないといけないのか」と不満を抱える恐れがあるのです。
民事信託の“横領リスク”とは?
信じて託す前に知るべき落とし穴
また、受託者の人選を間違えると、財産を使い込まれるリスクがあります。成年後見制度であれば年1回は家庭裁判所に財産目録などを報告する必要がありますが、民事信託はそのような報告義務がなく、財産を受託者名義の口座に移して管理することになるので、“横領し放題”になってしまいます。
今は民事信託がちょっとしたブームで、「やったほうがいい」という雰囲気がありますが、注意が必要です。「信じて託す」という言葉の重みを理解し、そもそも民事信託を利用すべきなのか、利用するならば安心して任せられる家族がいるのかをシビアに考えなくてはいけません。
※本稿は、『相続のめんどくさいが全部なくなる本』(ダイヤモンド社)より一部を抜粋・編集したものです。