相続は誰にでも起こりうること。でも、いざ身内が亡くなると、なにから手をつけていいかわからず、慌ててしまいます。さらに、相続をきっかけに、仲が良かったはずの肉親と争いに発展してしまうことも……。そんなことにならにならないように、『相続のめんどくさいが全部なくなる本』(ダイヤモンド社)の著者で相続の相談実績4000件超の税理士が、身近な人が亡くなった後に訪れる相続のあらゆるゴチャゴチャの解決法を、手取り足取りわかりやすく解説します。
本書は、著者(相続専門税理士)、ライター(相続税担当の元国税専門官)、編集者(相続のド素人)の3者による対話形式なので、スラスラ読めて、どんどん分かる! 親は子に迷惑をかけたくなければ読んでみてください。【子どもは親が元気なうちに読んでみてください。本書で紹介する5つのポイントを押さえておけば、相続は10割解決します。
※本稿は、『相続のめんどくさいが全部なくなる本』(ダイヤモンド社)より一部を抜粋・編集したものです。

【相続専門税理士が教える】「財産が自由に使えない!?」成年後見制度の驚くべき現実Photo: Adobe Stock

手続きで家族を守る!
認知症になる前に始める“成年後見制度”の基本

【相続専門税理士が教える】「財産が自由に使えない!?」成年後見制度の驚くべき現実『相続専門税理士が教える 相続のめんどくさいが全部なくなる本』(ダイヤモンド社)より イラスト:カツヤマケイコ

国税(相続税担当の元国税専門官)成年後見制度の手続きは、いつまでにやるのでしょうか?

前田(相続専門税理士)取消権を行使できるのは、過去にさかのぼってその事実を認める「追認」ができるときから5年間となりますが、イメージとしては5年間と覚えておけば大丈夫かと思います。また、成年後見制度は「任意後見」と「法定後見」の2つに分かれることを押さえておく必要があります。

任意後見は、自分が判断能力を失ったときに備えて、財産を管理してもらう人を自ら選んでおく手続きです。そのため、自分が認知症になることを見越して任意後見をするなら、認知症になる前に手続きを済ませておかなければいけません。

一方の法定後見は、本人が判断能力を失ったあとに、親族などが家庭裁判所へ申し立てをして、後見人を選んでもらう形ですから、必要になったら早めに手続きをすることになります。

希望通りの後見人を選ぶために
任意後見が注目される理由と手続き

国税 生前に相続の対策を打つという意味では、任意後見の手続きをする必要がありますね。

前田 はい。任意後見のメリットは、自ら信頼できる人を成年後見人に選べる点です。法定後見の場合、家庭裁判所に成年後見人を指定してもらうので、必ずしも希望に合った人選がなされるとは限りません。

令和4(2022)年度の裁判所のデータによると、親族が後見しているケースは2割弱、8割強は司法書士などの「職業後見人」が指定されています。10年前は8割強が親族後見だったのですが、今は親族が後見人になるほうが珍しいのです。

家庭裁判所が選ぶ“職業後見人”とは?
横領リスクを避ける判断基準

無知(相続のド素人)ええ、そうなんですか? なんとなく親族が後見人になるものと思っていました。どうして親族じゃない人が選ばれるんですか?

前田 成年後見人の人選は、家庭裁判所がいろいろな事情を考慮して決めます。職業後見人が指定されるケースが増えているのは、親族による横領事件が増加したことが要因と考えられます。

国税 なるほど。家族以外の人を成年後見人にしておけば、さすがに横領はしないだろう、という考えなのですね。

なぜ家族が困る?
成年後見制度の“意外なデメリット”

前田 気をつけなければならないのは、家庭裁判所が希望する人を選任してくれないからといって、「成年後見制度を使いません」とはいかないところです。成年後見人を選任する審判が行われる前なら申し立てのとり下げができますが、その場合でも家庭裁判所の許可が必要で、とり下げ理由を求められます。

国税 前田先生は、できるだけ法定後見制度を使ったほうがいいと思いますか?

前田 法定後見制度にはデメリットもあるので、ケースバイケースです。成年後見制度の最大の問題点は、財産が塩漬けになってしまうことです。とくに困るのは、認知症になった人と一緒に暮らしていた家族の生活費の問題です。

認知症を発症した夫の預金から年金を引き出して生活していた妻が、成年後見人をつけたばかりに、お金が引き出せなくなり、生活が一気に苦しくなることもあり得ます。

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成年後見制度を使う前に知るべきデメリット

無知 家族のお金なのに、まったく引き出せないのですか?

前田 手順を踏めば引き出すことはできますが、いちいち成年後見人に相談して許可をとらなくてはいけません。なぜならば、預金残高は成年後見人名義の口座で管理されるからです。

また、成年後見人に対して報酬の支払いが必要なことも注意しておきましょう。管理する財産にもよりますが、月額2万円ほどを支払うことになります。ひとたび成年後見人がつくと、辞めさせることは基本的にできません。

認知症になった本人が急に症状が回復するような奇跡でも起きない限り、死ぬまでずっと成年後見人に財産を握られ、報酬を払い続けなければなりません

後悔しない相続対策!
成年後見制度の利用前に知るべき盲点

無知 いろいろと注意点があるのですね……。

前田 そうなんです。ですから、やはり認知症になる前に、相続に関してやれることは済ませておくのが理想的です。そして、「認知症や知的障害=すぐに後見人をつける」と考えるのではなく、事前にメリット・デメリットをよく検討しておくことが何よりも大事です。

「成年後見制度」に問題はないの? … 最大の問題点は財産が塩漬けになってしまうこと

POINT 「任意後見」と「法定後見」を前提にメリット・デメリットを検討してみる

※本稿は、『相続のめんどくさいが全部なくなる本』(ダイヤモンド社)より一部を抜粋・編集したものです。