純米大吟醸の日本酒「獺祭」を世界的なブランドに育てあげた旭酒造。食品業界で日本一の給料を支給しようとしているが、完全な成果主義のような弱肉強食の制度は採り入れないという。日本の組織には、なぜ“緩さ”が必要なのか。桜井博志会長に、仕事ができない人の特徴と人事で大切にすべきことを語ってもらった。(旭酒造代表取締役会長 桜井博志、構成/石井謙一郎)

「こいつ、ダメだな…」資料を見れば一瞬でバレる絶対に仕事ができない人の特徴桜井博志/1950年、山口県周東町(現岩国市)生まれ。家業である旭酒造は1770年創業。1973年に松山商科大学(現松山大学)を卒業後、西宮酒造(現日本盛)での修業を経て76年に旭酒造に入社したが、酒造りの方向性や経営をめぐって先代である父と対立して退社。79年に石材卸業の櫻井商事を設立して集中していた。父の急逝を受けて84年に家業に戻り、純米大吟醸「獺祭」の開発を軸に経営再建をはかる。2000年頃から海外販売を開始。23年には米国ニューヨーク州で酒蔵を開業。米国ブランド「DASSAI BLUE」生産の陣頭指揮を執っている。 Photo by Shogo Murakami

トライ&エラーが大切
準備に時間をかけすぎるタイプはダメ

 私が常々「トライ&エラーが大切だ」と口にするのは、この社会が今後どうなるか、自分の会社をどうしたらいいのか、答えのわからない時代だからです。何事も最初からは上手くいかないのは、織り込み済みなのです。

 獺祭が失敗の歴史の中にあることを私たちは理解しているし、失敗を恥とせず、隠そうともしません。そこに強みがある、と考えています。

 社員たちを見ていて、有能そうでも自分の殻から出ようとしない「怪我を恐がる人」はダメです。そういうタイプがリーダーになったら部下はついてきませんから、失敗を恐れず、小さくまとまらない社員を育てたいと思っています。

 質が悪いのは、準備に時間をかけすぎるタイプです。そのせいで機を逸すると、出来ない理由をたくさん口にします。やっとこさ取り掛かったかと思えば、状況が変わろうとも絶対に方向転換しない。これが最悪です。ところがこういう人のほうが、弁は立つし、頭がよく見えるものなのです。